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BY ニイラケイ






     
 
「う〜ん…」
困ったなぁ。
屈み込んだあたしの足下で、呟きに被さるように
小さな鳴き声がした。

(どうしたらいいんだろ…)
良い方法が思いつかなくて、あたしは深いため息をついた。
出勤する時間はとうに過ぎている。
所長の冷たい眼差しがちらちらと頭をよぎるけど、
だからといって、このままこの場を立ち去ることはできない。
しゃがんだあたしの膝の上には、小さな黒い毛皮。
丸まっていた毛皮がもぞっと動き、愛らしい声を上げる。
「みゃおん」
猫、である。

事務所に向かう途中の道で、いきなり足下にすり寄ってきた仔猫。
不思議に思って見回すと、地面には破れた小さなゴミ袋が落ちていて
それはどう見ても、その仔猫が入れられていたとしか思えなかった。
怒りが先にきて、それが落ち着くと空しくなる。
(こんなことしたら死んじゃうって解ってるはずなのに)
もしも、ゴミの収集車が来ていたら。
何も知らない清掃員が、猫の鳴き声に気づかずにそのまま
ゴミとして回収してしまっていたら…。
思えば思うほど、涙が出そうになる。
こんなに腹が立つのに、この仔猫のために自分がしてやれることが
見つからない。
黒い小さな猫が、ふと小首を傾げてあたしの後ろに目を向けた。
「どないしはったんですか?」
急にかけられた声に振り向くと、そこには慈愛に満ちた神父の
柔らかい笑顔があった。
「ジョン!!」
「お久しぶりです」

「それじゃあ、こんな袋の中に?」
「うん…多分」
「自分で抜け出したんですやろな」
黒い袋には引き裂いたような跡が残っている。無惨なほど。
「うちじゃ飼えないし、とりあえず事務所に連れて行こうかな、
と思ったんだけど…」
事務所で飼ってあげられるわけじゃないし。
「そうどすな」
ジョンの膝の上で喉を鳴らす仔猫には、幼い生き物特有の丸さがない。
痩せた背中を撫でると、安心したようにまた丸まって寝息を立て始めた。
「どうして、こんなことするんだろ」
生きているのに。
「こんなに簡単に、命を奪うような真似しちゃいけないのに。
小さくたって、言葉は話さなくたって、生きてるのに…!」
人と同じように息をしてるよ。
人と同じように暖かいんだよ。

あたしの背中を、ジョンの手が撫でた。
それまで堪えてた涙が、溢れそうになる。
「…教会でやったら、飼えるかもしれまへん」
ジョンの言葉が、一瞬理解できなくて頭の中を一周する。
教会で?
「…ほんと?」
金色の髪を揺らして、ジョンが微笑む。
「日曜教室に来てるお子にも聞いてみますさかい、ボクに
預けてくれまへんか?」
教会やったら、麻衣さんも好きなときに会いに来れますやろ。
そう言ってジョンは猫を抱いて立ち上がった。
呆けてるあたしに、彼はもう一度微笑んだ。
ジョンの笑顔が嬉しくて、仔猫を助けられるのが嬉しくて、
あたしも泣きながら笑った。
「うん!…ありがとう、ジョン」

ジョンは、偶然あたしに会ったわけではなかった。
出勤時間が過ぎても現れないあたしに、心配性の『パパ』が騒ぎだし、
『ママ』は片っ端から電話をし始め、かの所長はブリザードを吹かせて、窓際から離れなかったという。
何とかみんなを宥めて、近くで具合でも悪くなって居るんじゃないかと
探しに来てくれたのだそうで。
「…ご迷惑をおかけしました」
「気にせんかてええですよって。麻衣さんが遅刻しはるなんて滅多にないから、
どっかで体調でも崩してるんやろうて、渋谷さんが言いはって」
「そこでジョンを使うところが、ナルのナルたる所以よね」
ジョンは困ったように笑って、
渋谷さんは先週体調を崩しはられたから、と精一杯のフォローをした。
「あんないい加減な生活してれば、風邪ぐらい引くに決まってるって。
ったく、何度言っても聞かないんだから」
ナルは先週風邪を引き、熱が高かったにも関わらず、みんなに黙っていた。
当然ながら風邪はこじれ、リンさんに大目玉を食らったばかりなのだ。
ああいうのを自業自得って言うのよ、と腕を組んだあたしに飛び移ろうと、
ジョンの腕の中で仔猫がもがいた。
「名前はどうします?」
そっとあたしの腕の中に仔猫を移してジョンが聞く。
「ん〜、飼ってくれる人がつけるのが一番だと思うよ」
「せやけど、それやとしばらく名無しのままってことになりますさかい、
不便なんやないですか?」
そう言われてみればそうよね。
うー、あー、悩むなぁ。
考え込んだあたしの顔を不思議そうに覗き込む黒い仔猫。
「…よし!じゃあ、『ナル』にしよう!」
「…は?」
「真っ黒な猫だから、ナル」
驚きのあまり何も言えなくなっているジョンを後目に、
仔猫は機嫌良さそうに鳴く。
「ほら、この子も気に入ったって」
ほんとに気に入ってるかどうかなんて分かんないけど、
ちょっと生意気そうな顔してるし、意外と似合ってるじゃない。
あたしがそう言うと、ジョンはさらに困った顔をして、
「渋谷さんが聞いたら、なんて言いますやろな…」
と言った。

その後、仔猫を連れて事務所に着いたあたしは、早速ナルに
仔猫を紹介してみた。
当然一騒動あったのだけど、…それはまた別の話。

 
終わり。
 
     






 何が、したかったのか…?(訊いちゃ駄目です)
 初めて最後まで書き上げたゴーストハントの小説になります。
 何が辛いって…ジョン。
 彼に喋らせようとした私がいけなかったのか。(泣)
 ジョンはこんな話し方じゃないよ(怒)って方、
 どうぞ大目に見てやって下さい。
 続きは一応ありますが、多分HP上には載せないかと思います。
 (何しろ、まだ出来てないし)
 ネタに詰まったら、ということで。



 とか言ってたのにな。
 載せました。(死)
 他の小説より早く仕上がったので。