「でねー、ナルってば可愛いんだよー」





--+--- LOVE&LIVE −その後− ---+--



BY ニイラケイ






     
 
 いつも通りの東京、渋谷、道玄坂。
 アルバイト員、谷山麻衣は、丸まった毛玉を撫でながら、
 でれーっとしている。
 周りを囲む人々は、ちょっと呆れてみたり、柔らかに微笑んでいたり。

 穏やかな日曜の午後。
 小さな黒猫「ナル」は、結局名前も定着し、(ただし、この呼称を
 所長の居る前で使っているのは麻衣のみだ)
 ジョンの言葉通りに教会で育てられている。
 今日は、ジョンが「ナル」を連れて事務所に遊びに来たのだ。
「アンタ、教会に入り浸ってんじゃないでしょうね?」
 松崎巫女が、口うるさい母親のように言うと、滝川坊主は麻衣を庇う。
「いいじゃねーか。猫も麻衣に懐いてんだし。なー?」
 滝川が、隣に座る麻衣の頭をくしゃっと撫でると、麻衣も滝川に続いて、
 ねー。などと言っている。
「そういう問題じゃないでしょ」
 呆れ顔で綾子が咎めるのを、ジョンが制した。
「そんなに来てはりませんよ。麻衣さんもバイトがありますさかい」
 久しぶりに顔を合わせるのだ、と説明してくれる。
 いつまでたっても直らない妙な関西弁を、気にする者は誰もいない。
 慣れ、だ。
 そうすると、こちらにも慣れたのだろうか。
 朗らかに笑う麻衣のやや後方で、デスクについて仕事をしている所長殿の、
 周りを取り巻く空気が冷たい。
 元祖ナル(笑)は、しかし所長室に戻らない。
 勿論、特等席をゲットした坊主の存在が気になっているからだが、
 本人にその自覚があるかどうかは微妙なところだ。
 機嫌の悪いナルの相手は辛い。
 不機嫌の理由がはっきりしているから、誰も彼に構おうとはしない。
 触らぬ神に祟りなし、とはこういうことか。
 お目付役のリンの姿も、今日はない。
 所用があるといって、ここ3日ほど姿を見せないが、行き先は相変わらず不明のまま。
 聞いたところで答えが期待できるわけではないので、麻衣は既に半ば諦めている。
「それにしても、ほんとに麻衣に懐いてんのね」
「さいですね。麻衣さんが来ると、離れへんのですよ」
「やっぱ、動物には優しい人間は解るんだよなー」
「じゃあ、アンタには懐かないわね」
「人のことを言えるのか?お前は」
 周りの騒がしさに、鬱陶しそうに話題のナルが目を覚ました。
「あれ、起きちゃった?」
 話しかける麻衣を見上げ、周りを見渡し、もう一度麻衣を見てから
 一度のびをしてナルが動き出した。
 騒いでいる霊能者たちも、目線だけは書類に向いているナルも
 仔猫が目覚めたことに気が付かなかった。
 気が付かなかったが、麻衣の一言は何故か事務所に響いた。
「あ、ナル。コラ、耳舐めちゃ駄目だって。やだ、くすぐったいよ」
 松崎も滝川も、ジョンでさえ、猫と戯れる麻衣を見ずに、その後ろにいる
 黒づくめの少年に目を向けた。
「…何か?」
 冷たい口元だけの笑みを浮かべて、ナルが客人たちを睨み付ける。
 だからその名前をやめろと言っただろう。と目が語っている。
 しかし、麻衣はその雰囲気に気が付かない。
「やーだってば。もーナルのえっちー」
 滝川がまず俯いた。続いてジョンが。
 松崎が呆然として言葉をこぼす。
「…想像しちゃった」
 滝川が、がばっと顔を上げた。
「言うなって!忘れようとしてんのに」
 ジョンはこそっと胸の前で十字を切っている。
 麻衣は、やっと皆の様子がおかしいことに気が付いたようだ。
「どうしたの?」
 いや、どうしたの、じゃなくて。
「なぁ、麻衣。その名前やっぱ変えてみないか?」
 滝川の懇願に、麻衣はあっさり却下との判断を下す。
「あんまりころころ名前変えると良くないんだよ」
 無邪気に言う麻衣に、滝川が撃沈した。
 元からぼさぼさの髪を余計に掻きむしって、がぁー!!などと奇声を発しているが、
 誰も相手をしない。それぞれがそれぞれの心を静めるのに必死だからだ。
 誰よりも早く立ち直ったのは、渋谷氏だった。
「麻衣、お茶」
 しかし、それ以上は言葉を発しないところを見ると、重症のようだ。
「あ、はーい。今煎れます」
 模範的な答えを残して、麻衣がキッチンに消える。
 黒猫ナルは、麻衣の後に付いていった。
 しばしの沈黙。
 室内の気温が、氷点下まで下がっているような錯覚を起こさせるナルの声。
「で?…何を想像なさってたのか、お聞きしたいんですが?」


 東京、渋谷、道玄坂。
 『渋谷サイキック・リサーチ』は、今日も平和である。(一部除く)
 
     






何が書きたかったかが、バレバレッスね。
 これからしばらく、小説がアップできないかもなので、
 載せてみました。