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好きだった。
それだけは自信を持って言える。
顔を見れるだけで嬉しくて、会えない間は胸が潰れそうなほど切なかった。
会えるということは、彼にとって辛い現実が続いているということなのに。
彼の幸せが旅立つことにあるのなら、あたしはそれを祈らなきゃいけないはずなのに。
会えないと、泣きたくなるぐらい淋しかった。
もう、二度と会えないかもしれないと、思うだけで。
会えるようではいけないのだと、あたしにその微笑みを向けてくれているうちは、
彼は苦しいばかりだと解っていて、つい口から出そうになる。
「また、会える?」
それは、禁句。
言ってはいけない言葉。
ぼーさんが好き。綾子が好き。真砂子も、ジョンも安原さんも。
リンさんやまどかさんも、出会った人たちはみんな宝物のように愛しい。
優しいみんなが大好き。
なのに。
どうして特別に思えてしまったんだろう。
夢の中にしか現れないあなたを。
いつも助けてくれたの。
あたしが泣きそうなときは笑って励ましてくれた。
決して触れられる訳じゃないけど。
あたしは、彼が好きだった。
どこが、じゃなくて、彼の全てが。
今あたしの横に眠るひとは、あなたと同じ顔で眠っている。
いっぱい悩んだよ。いっぱい泣いたの。
ジーンを忘れて、ナルに惹かれていく自分がイヤだったから。
ジーンの代わりに、ナルを好きになったような気がして。
でも。
あたしは今、ちゃんと自分の意志でナルの腕の中にいる。
いっぱい悩んで、泣いて、解ったから。
あたしはジーンが好きだった。
だから、あたしはあなたを忘れることはない。
そしてあたしは今、ナルを愛してる。
ジーンを好きな気持ちはなくならない。多分、ずっと。
あたしにとってジーンは今でも大切な人なの。
でも、何よりもナルを愛しいと思うから。
今まで出会ったたくさんの人の中で、誰より愛しいと思うから。
これは、恋じゃなくて愛なのかもしれない。
恋をしてないわけじゃないの。
あたしはちゃんとナルに恋をしてるの。
あなたと同じ顔をして、同じ声で話す、
けど、あなたではない人を好きになったの。
あたしは賢くないから、間違ってるのかもしれない。
いっぱい考えたけど、ほんとは答えなんか出てないのかもしれない。
ちゃんとナルを愛してるつもりで、実はナルの後ろにジーンを見てるのかもしれない。
だけど。
まだ時間はあるから。たくさん悩んで、たくさん泣いて、
最後にちょっとだけ、あなたの笑顔に近づけたらいい。
ナルの心に、触れられたらいい。
あなたの心残りは、あたしが守るから。
頭も悪いけど、非力だけど、でも彼の横で笑っているから。
あなたのたった一人の弟を、ずっと愛していくから。
だから、ひとつだけ。
あたしの大好きなナルが、幸せでありますように。
自分が生きていることを幸せだと、思ってくれますように。
できることなら、見守っていて。
お義兄さん。 |
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