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最初に抱いて欲しいと言ったのはあたしだ。
ナルはあっさり、それをOKした。
声も身体も心も震えるあたしに対して、ナルは普段と全然変わらない。
― ほんとに良いの?
訊く立場が違うだろう。
― だって・・・・後悔しない・・・?
お前は?
― しない。絶対。
・・・なら、少し黙ってろ。
いつもナルのくれるキスは、少し冷たい。
それは、行為そのものじゃなくて、彼の唇があまり熱を有していないから。
でも、今日のキスは熱い。
絡んでくる舌に、身動きさえとれずに委ねる。
ナルはキスの間も時折目を開けていることがある。
瞼の奥の、闇色の瞳で、キス一つに翻弄されるあたしを見ている。
・・・あたしが、彼に溺れている様を。
着ている服に手を掛けられて、裾から忍び込むナルの手を感じた。 冷たいナルの手は、けれど滑らかに蠢いて、
すぐにあたしのシャツは取りさらわれた。
これから始まるすべてが未知の領域で、あたしは対処に悩んだ。
友達に言われたことがある。
「あんたは、知識が足りない」
その言葉の意味を、そのときは理解できなかった意味を、
今更理解した。
ナルの行動に対処できない。
何をしていたらいいのか解らない。
キスの時に、どう息を継いだらいいのか解らない。
抱きしめられたら、抱き返せばいいの・・・?
ただでさえ頭の中は真っ白で、ナルの手が身体を探っていくのを、
受け止めることで精一杯だ。
仰向けに寝かされたあたしの上に、ナルが覆い被さっている。
あたしはもう、殆ど衣服を剥がれていて、
でも、ナルはシャツの着崩れさえない。
こんなに怖いこと、他にはない。と、あたしは思う。
「裸」を意識すればするほど、不安が固まりで押し寄せる。
無防備であればあるほど、怖い。
あたしは、もうあたしを隠すことが出来ない。
すべてはナルの闇の中に映し出されていて、彼はあたしを「みて」いる。
ナルは、多分きっと、あたしをみて何らかの感情を抱いているんだろう。
(・・・感情・・・)
失望、かもしれない。
自分に女としての魅力がある、なんて自惚れられるようなものを
あたしは何一つ持ってない。
呆れてるかもしれない。
面倒だ、と思ってるかも。
でも。
ほんの少しで良いから、「愛しい」と思ってくれないかな。
欠片でも良いから。
一瞬でも良いから。
あまりにナルが遠く感じて、ナルの気持ちが分からなくて、
それが怖くて交わりを求めたのに、
自分から求めたはずのSEXも恐いなんて、どうしたらいい?
抱きしめてくれる腕が、唇が、怖いなんて、どうすればいいの?
どうしたら、近づけるんだろう。
闇の中に、踏み込んでも良いんだろうか。
闇の中にいる小さな貴方を、あたしは抱きしめたくて仕方ないのに。
泣きたい訳じゃなかったのに、涙が一筋流れた。
この涙に、ナルが気が付かなければいいと思う。
後悔してると思われたくない。
痛みがあると思われたくない。
切ない心に、気が付いて欲しくない。
ナルがそれに気が付いたのかどうかは解らない。
けど。
その夜の行為は、酷く優しかった。 |
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