アメリアを送り出した後、あたしたちはしばらく久しぶりのセイルーン・シティを散策してから王宮に向かった。
王宮ではすごい顔をしたメイドさんににらみつけられたけど、フィルさんは笑顔で迎えてくれて、なかなかによい部屋をあてがってくれた。さすが話の分かるおっちゃん、もとい国王代理陛下でいらっしゃる。
戴冠式は明日。
今晩はアメリアも忙しいだろうし、あたしたちだけでのんびり過ごすことになるだろう。
「んねー。そういえばさ、あんた……怒ってない?」
部屋に荷物を置いたりして何となく気ぜわしくしている中、あたしはさりげなく聞いた。
んあ? とガウリイが振り向く。
アメリアが余計な気を回したらしく、ガウリイは同室だ。ちなみに、ゼルはとなりの部屋。
「怒ってるって……何を?」
荷物から鎧を取りだしていたガウリイは、顔だけこちらに向けてその真っ青な目をぱちくりとしばたいた。
「まさかっ!? オレが酔っ払ってる隙に路銀を奪ったとかっ!?」
「奪うかぁっ! いやだからさ……昨夜、あたしほら……その……アメリアと」
段々に声が小さくなる。
っだぁぁぁぁっ! 言わせるんぢゃないっ!
そこまで言ってやってもぽかんとしていたガウリイは、しばらくしてぽん、と手を打った。
「アメリアとキスしてたことだなっ!」
「……ぐぅっ。そ、そーよ」
この反応を見ただけで分かる。
怒ってない。全然怒ってない。
「それの、何を怒るんだ?」
「いやほら……いちおー、他の人とキスしたってことで……」
言ってみても、本気で困った顔のガウリイ。
はあぁぁぁぁ。
あたしはため息をつく。
「……あんたにヤキモチなんて高等な感情ないか」
いや、別にヤキモチを焼かれてみたい、というわけではないのだが、ここまで無反応だとそれはそれで複雑な気持ちになるのが乙女ゴコロというやつなのである。
ガウリイはうーんと唸りながら頭をかいた。
「そうは言ってもお前さん……仮に、オレがゼルとキスしてるの見ちまったら……どう思う?」
「指さして笑う」
あたしはきっぱり答えた。
「だろ? まぁ、さすがにお前さんがゼルとキスしてたら、ちょっと嫌だなぁ、と思うが」
「ちょっとか!?」
それはちょっとなのかっ!?
やっぱり脳みそがスカスカなだけに、その辺の神経のつながり方もおかしいんだろうか……?
普通、なんかこう、あるんじゃないだろうか。
他の奴とキスなんて絶対許さないとか、手をつなぐだけでもたまらないとか、いや笑顔を見せるだけで妬けてくる、みたいなのが。
――そこまで言われたら、「うざったいわぁ!」とか叫んで吹っ飛ばしそうだが。
「うーん」
だって、とか、つまり、とか呟きながらガウリイはしばらく悩んでいたが。
不意に、すこーんと気が抜けるような顔で言い切った。
「だって、リナが好きなのはオレだろう!」
ぐはっ!!
「そ……それは……っ」
「だから、何か考えがあってしてるんだろうし」
「う……うみゅぅ……」
「別に、腹は立たないぞ?」
「そ……そぉですか」
「おう」
しばし考えるあたし。
右見て。
左見て。
逃げ場が見つかんないので上目づかいに正面のガウリイを盗み見て。
他に対応が思いつかなかったので、とてとて寄っていってキスすることにした。
ガウリイのおっきな空みたいな笑顔がものすごくくやしかったのでちょっとボカボカ叩いてみたけど、当然ながらビクともしなくて、余計くやしかったのだった。
END.
極限まで白いガウリイさんを追求してみました(笑)。
馬鹿だけどかっこいい〜♪