シークレットブーツ

 旅をしていると、靴がすぐに擦り切れてしまう。
 特にあたしたちなんかは激しい動きをすることも多いし、底が減ってくるのもあっという間だ。
 ただ歩くだけだったら、多少底が減っていてもどうということはないんだけど、命のやりとりをするような戦闘の時、靴のギャップが効いていないというだけのことが、命取りになることもある。
 あたしたちみたいな稼業の人間にとって、靴その他、身の回りのものを常に整えておくというのは、仕事のうちの一つと言っても過言ではない。
「んー。いいの、ないわねえ」
 またまた履き換えの時期を迎えた靴の新品を探して、店をのぞきまわることしばし。
 なかなか、目的にかなったものが見つからない。
「これなんか、いつも履いてる感じのヤツじゃないか?」
「……ちょっと違う」
 そうかなー? と首をかしげるガウリイを放っておいて、あたしは店の中に入っていく。
「おばちゃーん、ちょっと聞きたいんだけど」
 付いてこようとしたガウリイは、さりげなく押しとどめて、店の外に出てもらった。
「長くなるから、一人で時間つぶしてて」
「ん……ああ、そっか」
 どこか名残惜しそうにしながら離れていくガウリイを見送って、あたしは店の奥から出てきたおばちゃんに向き直った。
 あたしの探し求める靴の特徴を告げるために。

「お?」
 人気のない街道で、頬に不意打ちのキスを食らわしてやると、ガウリイは相当驚いたようだった。
 うん、よし。いい買い物をした。
「リナ、どうした? ていうかお前さん、なんか背が高くなってないか?」
「そうお? こんなもんでしょ。むふふ」
「……」
 すぐにからくりには気付かれてしまった。
「わわっ」
 ガウリイはあたしの足をつかんで、片足飛びの時のような体勢にすると、まじまじと新しい靴を見た。
「……なるほど」
「ふん、いーでしょ」
 足をつかんだ手を振り解いて、ちゃんと両足で立つ。
「お前それ、走る時の感覚変わらないか?」
「しばらくの間だけよ!」
 その間、普段は届かないこいつの唇に、ちょびっとだけ近くなる。

 やられっぱなしじゃいないんだから。
 ちょっと覚悟しといたらいーわよ。

END.

オンリーの時のペーパーにくっつけてたSSです。
うちのリナさんは積極的で好戦的です(笑)。

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