「おう、リナ。支度できたか?」
ガチャ、とガウリイが宿屋のドアを開けた途端、顔面めがけて剛速球で枕が飛んできた。
「乙女の部屋のドアを気安く開けるんじゃないわよこの脳みそヨーグルト男っ!」
「あ、すまん、まだだったか」
潔く閉めようとするが、
「終わったわよ」
の言葉に思い直して再びドアを開いた。
どれどれ、とのぞきこんだガウリイは、何度か瞬きをする。
「すみません、部屋を間違えました」
「ちょっとっ! 何寝ぼけたこと言ってんのよあんたはっ!」
鏡台の前には、誰か知らない少女がいた。
いや、普段のリナとはあまりにも違いすぎる別人のような格好をした『リナ』がいた。
太ももの半ばまでの短めワンピースは夏向けの薄物で、パステルイエローを基調とした女の子らしい色合いだ。華奢な2本組の肩紐だけで支えられており、肩から腕にかけてのラインがむきだしになっている。控えめな胸のふくらみの部分にはふんわりとしたピンクのレースが段になっており、胸の下あたりからするっとスカートになって腰のくびれを隠す。
少々子供っぽいデザインではあるのだが、小柄で細っこい体型のリナにはそれがぴったりと似合っていた。
しかも、髪は二つ分けにしてゆるく三つ編みに編んでおり、それがまたかわいらしい。普段の悪魔のような暴れっぷりを知っているガウリイにも、まるであどけない少女のように映った。
ちっちゃくて無防備で、もう子供のようにぎゅーっとしてぐりぐりしてやりたいかわいさだ。
「……はー。いいもんだな」
「へ? 何が?」
聞き返されて、ガウリイは言うはずのない言葉を口に出してしまっていたことに気付く。
あまりにも驚いたので、思わず声が出てしまったらしい。
「あ、いや。つまりな」
「あ、三つ編み? ふふん、さっぱりするでしょ。けっこう動きやすくていいのよ。ガウリイもやってあげようか?」
どうやらリナは自己完結したらしい。
ガウリイはその無意識の助け舟に乗ることにしてうなずいた。
「あーうん。そうだな」
「はいはーい、いらっしゃーい」
何やら上機嫌らしいリナは、笑顔でガウリイを手招きする。
ここはおとなしく従っておくことにして、ガウリイは鏡台の前に腰を下ろした。リナがブラシでガウリイの金髪をすき梳かす。
「あんた全然手入れしてないわね……。ちょっと毛抜けちゃうかもよ」
「いや別にかまわないぞ」
「せっかくこんな綺麗な金髪なのに、もったいなーい。――売ったらいくらになるかしら」
「おいおい」
ふんふーんなどと鼻歌を歌いながら髪を梳かしていくリナを鏡の中で見ながら、ガウリイは後ろのリナにばれないように口元をゆるめた。
(まぁ、いいか。リナの手、冷たくて気持ちいいなー)
長い髪を結いあげるのに夢中なリナは、まったく気が付かない。
ここで、似合うとかかわいいとか言ったり、いっそのこと本当に抱きしめてしまうことができれば、実のところリナは嫌と言わないはずなのだが。
こういうへたれっぷりなので、いつまで経っても2人の仲は進展しないのである。
その後、2人のおそろいの三つ編みを見てからかいに走ったアメリアには、もちろんリナの鉄槌が下された。
END.
おそろいの三つ編みに萌えすぎて。
なんか、たまにはリナを意識してるほの黒いガウリイさんを書いてみようと思ったんです。ダメですね、撃沈(笑)。