彼の認識

「何あれ! 腹立つわねー。誰が子供で誰がちびっちゃいのよ! どう見たって若くて小柄でかわいい女の子じゃないのよ!」
 ぶつぶつと文句を言いながら歩く連れを、ガウリイは微妙な気分でながめる。
 確かに、先ほどまで同行していた仕事の依頼人は、リナに少々冷たかった。彼女の幼く見える容姿や、人より低い背丈について、からかい気味の言葉を投げてもいた。
 だがガウリイが聞いた範囲では、そこまで怒るほどの物言いではなかったように思える。
 リナは実際若く、体格的にも頼りないため、依頼人から『信頼していいのか』と疑問視するような言葉を投げかけられることが少なくない。1年少々一緒に旅をしただけのガウリイもたびたび耳にしてきたくらいだから、本人はもっと聞いているだろう。いい加減その手の嫌味を言われることには慣れているはずである。
 今回の依頼人の言葉はそういった中で飛び抜けて失礼なものではなく、よくあるレベルのものだった。少なくともガウリイにはそう聞こえていた。
「うーん」
 ガウリイは、かける言葉に迷って頭をかく。
「そんなにキツいこと言ってたかなあ……」
「言葉はキツくなかったかもしれないけど、視線が口以上に言ってたのよ、『あんたみたいな子供が〜』って!」
「そうかあ?」
「ガウリイにばっかり色目使って、あたしを見る目ときたら『あんたなんか不釣り合いよ』って言わんばかりだったじゃない!」
 ますます複雑な気分になって、ガウリイはむくれるリナの横顔を見つめる。
 とても怒っている。
 しかも、その怒りの内容は『子供だから信頼して仕事を任せられない』と思われたからではなく、『子供だからガウリイには似合わない』と思われたから、のように見える。
「……うーん」
 ガウリイは、うまい言葉を見つけられずにうなった。
「あんたも、そうやって曖昧な態度取ってないで、びしっと言ってやればいいのよ、びしっと!」
 何をびしっと言えばいいのか。
 ツッコもうにもツッコみづらく、ガウリイは言葉を飲み込んだ。
 胸の中を行ったり来たりするいくつかの疑問は、複雑にからみあっていて、言葉で説明するのが難しい。何か聞きたいようでいて、何を聞いたらいいのかわからない。
 漠然としたそれらの疑問を総合すると、『こいつってオレのこと好きなのかなー』ということになる。いまだ疑問系ではあるが、これまでもいろいろと積み重なっているので、かなり確信に近い。
 仮にその疑念が事実だったとした場合、ガウリイに迷惑だとか困るだとかいった気持ちはない。むしろガウリイ自身のリナに対する気持ちもまた、恋愛感情という枠でくくられる類のものだという自覚があるので、どちらかといえば嬉しいのだと思う。
 だが、だからといって、どうこうしようとも思わないのが今現在の事実だ。
「……うーん……」
「ま、いつまでも愚痴っててもしょうがないわね」
 リナは気持ちを切り替えようとするようにため息をつき、ぱっと笑顔に変わってガウリイを見上げた。
「なんかおいしいものでも食べに行きましょっか、ガウリイ」
 それだけで、ガウリイの胸の中のもやはきれいに晴れていく。
「おう!」
 どうでもいいわけではない、と思うのだが、やはりどうでもいいのかもしれない。
 この胸にある疑問を口に出せば、あるいは彼自身の気持ちを口に出せば、何かが変わるのかもしれない。だが、変わらなくても別段かまわないしなーと、ガウリイはすべてを後回しにする。言うべき時が来たら言えばいいだろう、と思う。
 ガウリイにとって大事なことは、あまり多くはない。
 簡単に言ってしまえば、リナが笑っていれば満足である、と、そういうことだ。

END.

拍手用小話。
私のガウリイさん解釈をストレートに書くと、こういうことです。

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