片思い小話

「カップルに見えるんだなあ」
 ガウリイがなにやら感心したように呟いたのは、荷物を置いて宿を出た後だった。
 唐突に言われて、あたしは少々焦る。
「なに……ああ、さっきの宿のおっちゃんの話?」
「ああ」
 ガウリイはうなずき、感慨深そうに腕を組む。
「前は、一緒に宿を取っても『兄弟か』とか『護衛か』とかって言われてたのにな」
「ガウリイがっ! 前に言われたことを覚えてる……っ!?」
「お前な。いや、部屋はひとつかとか言われてちょっと驚いたからさ。前はどーだったっけって一生懸命思い出したんだけど……」
 ま、確かに。一緒に旅をし始めた頃はそんなだった気がする。
「お前さんが子供に見えなくなってきたんだな、きっと」
 そう言ってぽんとあたしの頭をたたく。
「え……」
 あたしはちょっとうつむく。
 ガウリイ本人にとっても、あたしは恋愛対象の範囲内に見えてきているのだろうか?
 いや、もともとこのリナ=インバースはこいつなんかにはもったいないくらいのいい女なのだが。
 ほんのちょびっと、外見的成長が中身に追いついていないところがあるのは認めなくてはならない。特に胸とか。あと身長とか。
 ちょっと迷ったが、思い切って聞いてみることにする。
「ガウリイも、あたしが子供じゃなくなってきたって、思う……?」
 ガウリイは少し驚いたように瞬く。
 けれど短いけれどもどきどきする沈黙ののち、ガウリイは何かを納得したようにふわっと笑った。
「ま、オレはずっとお前さんの保護者やってるつもりだけどな」
 胸の奥に、ずしりと重い石を落とされた気がした。
 はあ、ずっとね。
 ずっとですか。
 別に、保護者やめちゃうんじゃないか、なんて心配したわけじゃないんですけどね。
「あ、そ」
 あたしはその笑顔をみていられなくて、ふいと目をそらした。
 照れてるんだとでも思ったのか、ガウリイが腕を伸ばしてあたしの頭をがしがしとかき混ぜる。
 子供扱いされても、その手が心地いいと思って、ついつい満足してしまう。
 そんなあたしの未熟な情熱では、きっと、この男は手に入らないのだろう。

END.

片恋お題の没稿です。

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