秘密 片恋お題: 12

「お祈りをなさって行かれるとよいですよ」
 そう言って笑った大神官さま、優しそうな顔をしていたが、押しはかなり強かった。
 あたしは曖昧な笑みを返した。
「はあ……」
「寺院へ通う習慣をお持ちではないようですね。しかしあなたは今週、罪を犯しはしませんでしたか?」
「つ、罪ですかっ?」
「そうです。誰かを傷つけませんでしたか? 誰かを粗末にしてしまいませんでしたか? はたまた規を乱しませんでしたか?」
「いやそれは」
「神は、悔い改めるものすべてをお許しになります。しかし」
「あ、それじゃあちょっとだけ」
 放っておくと長い長い宗教講釈が始まりそうだったので、あたしはあわててそう言った。
 社交辞令だとゆーことに気付いていなかったわけでもないのだろうが、大神官さまはにっこり笑って満足そうにうなずく。
 これだから嫌なのである寺院などとゆーのは……。
 もちろん、このあたしは参拝のために訪れたわけではない。単なる仕事である。
 この寺院で奉っている竜神像を狙う盗賊がいるので、それを捕まえてほしいというのが依頼内容だ。まあ、よくある小さな仕事である。問題の盗賊は捕獲済み。神像も無事。
 あたしは祭壇を見上げる。
 奉ってあるのは、赤の竜神スィーフィードのようだ。
 あたしと同じくらいの大きさがある赤竜神の神像が、どーんと中央に据えられている。
 このあたし、美術品などに格別造詣が深いわけではないが、お宝の選別には慣れている。自慢になるのかどうだか分からないが。
 この神像というヤツ、像自体はもちろん、台の細工も含めて確かに見事なものだった。ステンドグラスから降り注ぐ赤青黄色の光に照らされて虹色に輝いた像は、訪れる参拝者の目を釘付けにしている。
 だがしかし、残念ながらあたしはあんましこーゆーのに興味がないのである。
 ……さて。
 大神官さまの白髪頭が去っていくのを確認して、あたしは頭をかいた。
「ふー」
 ちなみにあたしは今、ガウリイ待ちの状態である。
 盗賊を捕まえる際、ちょっとした背後組織が判明したので、ガウリイはそちらを追いかけて町の警邏隊と出かけているところだ。もうしばらくは帰ってくるまい。
 しかし、だからといってお祈りという柄でもない。
 ……帰ろ。
「リナさん」
「うぉうっ!?」
 帰ろうとして振り向いたあたしの前に、どこかへ行ったかと思った大神官さまがいた。
「お祈りをすると言ったのはウソだったのですか」
「いやウソだなんてそんな……」
 大神官さまはじっとりした目であたしをにらむ。
「あなたは今日、神像を守ってくださるためとはいえ、魔法で人を傷つけましたね?」
「ええまあ」
 いやそれあなたの依頼なんだけれども……。
「蹴りも入れました」
「そーですけど」
「私のことを堅物神父と呼びました」
 私怨入っとるぞ。
「あなたのお連れ様に至っては、スィーフィード像のことをトカゲのおっちゃんの銅像と呼びました。このスィーフィード様はトカゲのおっちゃんではないし、この像は石像であって銅像ではないっ!」
「はいいい……。どおも大変申し訳ありません」
 あたしはすなおに謝った。
 昼間ガウリイがこれを言ってから、同じお叱りを受けることすでに何度目か分からない。
 さすがにこれはガウリイが悪いと思う。
「これでも、きちんとしたお祈りをせずに帰るとおっしゃるのですか?」
「すみませんでしたちゃんとやりますう……」
 どーしてあたしだけが、ガウリイの分まで……。
 ガウリイめ、帰ってきたらおごらせちゃる。
 思いながらも、やけくそで言われた通りちゃんとお祈りのポーズを取った。
「そうです。それでは、心を静かに落ち着け、神に罪を懺悔してください」
「はあ……」
 心静かに、と言われてもなあ……。
「えーと、とりあえず、ガウリイがトカゲのおっちゃん呼ばわりしたことは本当に悪かったと思ってます」
 それだけはちゃんと謝った。
「それからー……。魔法で人を吹っ飛ばしたのは、仕事なんで見逃してほしいなーと思います。
あと、大神官さまを堅物神父と呼んだ件については、とても正当な呼称なので謝んなくていーんじゃないかと思うんですけど、どーでしょう。
うーん他にはー……盗賊をいじめたおしていることも、ガウリイなどは人道的にどうかと言うのですが、あたしは世のため人のためになることをしてると思うので、別に謝るつもりないです」
 ……うーん。
 こうして並べてみると、あたしの日頃の行いに、反省すべきことなどないではないか。
 さすがリナちゃん!
(いや、ひとつだけ)
 あたしは唇を歪めた。
 それを、心の中だけで懺悔する。
 あの呪文を唱えたこと。
 ――それは、確かに罪だったと。

「リナ、何やってんだ?」
 急に声をかけられて、はっとした。
 意外と真剣になっていたらしい。
 ガウリイがすぐ後ろまで来ていて、あたしの顔を不思議そうに見ていた。
 それほど時間は経っていないはずだが、いつの間にやら、周囲には大神官さまも参拝客もいなくなっている。
「いや別に」
 あたしは膝の埃を払って立ち上がる。
「ガウリイ、仕事終わったの? ずいぶん早かったわね」
「ああ、簡単に済んだから。そんなことより、リナ、何を熱心にお祈りなんかしてたんだよ」
「別に熱心に祈ったりしてたわけじゃないわよ。大神官さまにどーしても祈ってけって言われたから、真似ごとしてただけ」
「オレに気付かないほど集中してたのにか?」
 ううむ。食い下がるなあ。
 あたしは心の中でぼやく。
 ガウリイはもともとそううるさく干渉してくるタイプではないのだが、ここのところどうにも疑り深くなっている。
 きっかけは、あたしが悪夢にうなされているところを偶然見てしまったことだろう。
 あれ以来、あたしが隠している冥王とのいきさつについて、どうしても気になってたまらないらしい。
 もともと彼なりにあの戦いの顛末を気にし続けていたようだったから、そこへこのあたしの珍しくも可憐な姿など見てしまったことが、追い討ちというか決め手のような形になってしまったのだろう。
 気持ちは分かるのだが、それだけは言うわけにはいかないのである。
「女の子にはいろいろあるの。それより、仕事終わったんなら帰ってご飯にしましょ」
「リナ……」
 ガウリイは困りきった顔であたしを見る。
 あたしはぷいと横を向いた。
「だからー、お祈りの内容なんつーのは乙女の」
「そうじゃないだろ?」
 逃げようとした手を掴まれて、じっと見つめられた。
「そうじゃ……ないだろ?」
 あたしはガウリイに向き合ってため息をつく。
「あのねえ、ガウリイ。いいじゃない秘密のひとつやふたつ。なんでそんなに聞きたがるのよ」
「リナ……なんでもかんでも話してくれなんて、言うつもりはないんだ。けどお前さん……今、すっごい重たいもんを、抱え込んじまってるんだろ?」
 けして口の回る方ではないガウリイは、考え考え言葉を口にする。
 一生懸命に気持ちを伝えようとする様子が、なんだか泣きそうにも見えた。
「それは……オレのせい、だよな?」
「違うわよ」
 あたしはためらいなく大嘘をつく。
「そもそも、別に隠しごともしてないし」
「ウソだ」
 ガウリイは即座にそれを否定した。
 おそらく根拠とかはないのだろう。彼はただ、それを確信しているのだ。
「どうして、隠すんだ……? それは、簡単に話せないほど、重たいことだからなんじゃないのか……?」
 まったくもってその通りなんだけどね。
 あたしは苦笑いをして、ガウリイを見つめ返した。
 なんでも忘れちゃう得意技を、こういう時こそ発揮してくれればいーのに。
 何度聞かれても、どれだけ図星を突かれても、この秘密を話す気なんかない。
 だって、あんたをただ苦しめるだけだって、分かってるもの。
「……っ」
 根比べに負けて、目をそらしたのはガウリイの方だった。
「お前さんを守ってやりたいって思ってきたのに、肝心な時に、なんでいなかったんだオレは……!」
 あんたがいなかったからこそ、起こったことなのよ。
 あたしは心の中で呟く。
 教えてあげないけど。
「別に。何も、なかったわよ」
 静かに言ったあたしの手を、ガウリイはぎゅっと力をこめて握った。
「リナ……」
 不安そうな顔をして、あたしを見下ろす。
「このままじゃ、お前さんが遠くなっちまいそうな気が……するんだ」
「……そんなことないわよ」
 気休めに言ってみたものの、あたしとガウリイの間には、確かにあれ以来少しずつ壁ができ始めていた。
 それは、あたしが自分の想いを自覚したせいであったり、あの呪文を使ったという罪悪感のせいであったり、それらが引き起こしたいくつかの小さな事件のせいだったりするのだと思う。
 だが、ガウリイにとってみれば、『黒いのに捕まって、気が付いたら助け出されてた』というのが現実。あたしの変化も何もかも、ただ戸惑うばかりに違いない。真実を知りたいだろう。それは分かっている。
 それでもあたしは『それ』を隠し通す。
「なあ……お前さんが前言ってたこと、オレも言っていいか?」
 あたしは苦笑いのまま答えた。
「何?」
 ガウリイのひたむきな目が、大好きな目が、あたしを見つめる。
「オレを置いて、どっか行くなよ」
 あたしは苦く笑っていた自分の口元が歪むのを感じた。
 嬉しいはずのセリフなのだ。
 期待に震えてもいいはずのセリフなのだ。
 でも、もうあたしにはよく分かっている。
 それは、ただ思いついたままに口にされただけのセリフだ、と。
 なんとなくあたしがどっか行っちゃいそうなのが怖いだけなのだ、と。
 彼はあたしに対して、あたしが彼に抱いているのと同じ気持ちは持っていない。
 彼のあたしへの気持ちは、ただ守ってやりたいというだけの気持ちだ。
 冥王によって別離を余儀なくされ、彼の死という絶対的な絶望を突きつけられたあたしと違い、彼にとっては今が日常の続きでしかない。
 あたしがそのセリフを言った時、どれほどの思いを込めたのか、分かっているはずもない。
 その落差が悔しかった。
 さっきから握っててくれる手が嬉しくて、だけどそんなことで喜んでいる自分が悔しくて、あたしはガウリイの手を解いていた。
「……2度もあたしを置いてったのは、あんたじゃない」
「それは」
 ガウリイの顔もまた歪む。
「悪かったと……思ってるよ。でも」
「もういいわよそういうの。守ってやりたいとかどっか行くなとか。ただの旅の連れに言うことじゃないでしょ」
「だって、オレはお前の……」
「保護者だ、って言うんでしょ」
 ガウリイのセリフを取って、先に言ってやる。
「だけど、そもそも自称保護者って何なのよ? あたしは保護者が必要な年齢でもないし、ちゃんとした保護者もいる。そんな肩書き、ネタにする以上の意味なんかないじゃない。あたしたちは赤の他人でしょ。それ以上にする気はないんでしょ。じゃあ、あっさり行かない?」
「リナ……?」
 困惑した顔で、ガウリイが呟く。
「お前さん、何を怒ってるんだ……?」
 本気で分からないという顔のガウリイに、あたしの口から、言うつもりのなかった言葉が滑り出す。
「あんたは何にも分かってないわ」
「リナ……?」
 やめといた方がいい、と心の冷静な部分で思ったが、たまりにたまった鬱屈した気持ちは、1度吹き出すと恐ろしく滑らかに言葉になった。
「保護者ってことは、要するにいつかあたしを嫁にでもやるつもりってことでしょ。どこも行くなとか、勝手なこと、言わないでよ」
「いや、そんなことは……」
「あたしの気持ちも考えないで、そーやってその場の気分で適当なことばっかり言って。少しはあたしがどう思ってるのか、考えてみたらどーなのよ。あたしが何をしゃべってるのか、真面目に考えてみたらどーなのよ」
「それってどういう……」
「聞いてばっかいないで! ちょっと考えれば分かるはずだわ。あたし、何にも隠してなんかないんだから!」
「オレが話よく分かってないのを、怒ってんのか……?」
「そーじゃないわよ! そーだけど、そーじゃないっ!」
 ガウリイは、困るのを通り越しておろおろし始めている。
 あたしは言葉を止めて、吹き出しそうになる鬱憤を止めて、口を手で覆った。息を止めれば、少しは落ち着ける気がした。
「リナ……」
 深呼吸して、そっと手を放す。
「……ごめん。少し1人にして」
 あたしはガウリイに背を向けた。
「リナ……?」
 不安そうな声を耳にしながらも、あたしは立ち止まらずに寺院の出口に向かって歩いていく。
「……後で、夕ご飯の時に」
 それだけ言って、寺院の大きな木の扉を左右に開いた。
 午後の明るい光が、あたしを焼くように注ぎ込んできた。

 外には、小さな前庭を挟んで町並みが広がっていた。
 町の真ん中にある寺院だから、回りにあるのは普通の家ばかり。みんな、日々の営みに忙しく立ち働いている。
 そんな光景を見ながら歩いていると、少し気持ちが落ち着いてきた。
 ……ひどいもんだ。
 あたしは自分を笑う。
 ガウリイは何も悪くないのに、自分の気持ちを処理できなくて一方的に非難してしまった。
 ガウリイのあたしに対する気持ちは、きっととても純粋なのだ。ただ守ってやりたいと思っていて、ただあたしがどこかへ行ってしまったら嫌だなと思っている。
 けど、あたしのガウリイに対する気持ちはもうぐちゃぐちゃだ。欲張りで、わがままで、そんな権利もないのに彼が同じ気持ちを返してくれることを求めてしまう。
 そばにいてほしいとか、他の人を見ないでほしいとか、抱きしめてほしいとか、あたしを好きになってほしいとか。
 みっともない。
 あたしは空を仰ぐ。
 真っ青で、透き通った空。
 あんな風に、澄んだ思いでいたいのに。
「本当に……からかい甲斐のあるお嬢ちゃんじゃね」
 いきなり声をかけられて、あたしは辺りを見回す。
 聞き覚えのある声だ、と思ったのは間違いではなかった。
 少し先の路地に小さな卓を出しているのは、いつかの占いばあちゃんだった。
「ばあちゃん……あんたなんで……」
 予想外の登場に、あたしは呆然として呟いた。
 その姿を見て感じたのは、単にコワいということではなく、猛烈な不信感だった。
 長年培ってきた戦士の勘とでも言うべきものが、これ以上近づいてはならないと告げる。
 あたしはショートソードの柄にさりげなく手を伸ばしながら、慎重に足を止めた。
 そんなあたしの姿に、ばあちゃんは何を思ったのだろうか。
 卓から立ち上がり、1歩こちらへと距離を詰めた。
「魔法の薬はいらないかい?」
 あたしは、詰められた距離の分1歩下がる。
「苦しまずに死ねる、魔法の短剣は? それとも、あんたの苦しみがあの男に分かるようになる魔法の鏡はどうだい?」
 あたしはすいと目を細めた。
「あんた一体、何者?」
 ばあちゃんは堪えきれないというように笑いだした。
「くふふふ……」
 そのあまりにもこの場にそぐわない楽しそうな様子に、ふと、すべてのピースがはまったと思った。
 こんな反応をする奴らを知っている。
 あたしはその答えを呟いた。
「――魔族――」
 そう考えると、疑問に思っていたことがすべて納得できる。
 これまでのことが次々に思い出される。
 信じられないような狭い隙間を、自由自在に移動していたこと。
 あたしの部屋に、気付かれず忍び込んで小瓶を盗んでいったこと。
 大きな手間をかけ、危険を犯してまで、他人の心の繊細な部分をかきみだそうとしたこと。
 何しろ世の中いろんな人間がいるもんで、『変なばあちゃんだから』でなんとなく納得していたが、魔族であると思って見ればまったくもって魔族である。
 むしろ、気付かなかった自分にびっくりする。
 いないって。あたしの部屋に忍び込めるばあちゃんなんか。
「なるほど……そーゆーこと。それで、あの呪文のことを知ってるってわけ」
 重破斬[ギガ・スレイブ]にまつわることを正確に知っている人間はいない。
 あたしはそう思っていたが、知っている『魔族』ならいるのだ。
 何しろ、他でもない魔族の現指導者だった奴が画策していた事件なのだから、その下で動いていた下っ端も多かろう。実際のいきさつをどのくらいの魔族が把握しているのかは分からないが、把握している者がいないわけではない。
 最低でもゼロスは真実をありのまま知っている。その配下だったり同僚だったりする奴らが知っていても、何の不思議もないだろう。
「おやおや……残念だねえ。もう少しからかいたかったのに、バレてしまったのかい」
 ばあちゃんは、皺に埋もれた目を見開いた。
 淀んだ目は、どこを見ているのか分からない。
「じょーだん。もうからかわれるのはまっぴらごめんだわ」
「そうかい。いや……お前さんの負の感情は、本当に美味しかったよ。最近食べた中では、とびきりだ」
「そりゃどーも」
 全然嬉しくないけど。
「一体、何が目的なの?」
 ばあちゃんはぱたぱたと手を振った。
「あんたに会ったのは、たまたまじゃっ!」
「……たまたまなんだ……」
 あたしはちょっぴしがっくりして肩を落とした。
 なんであたしってこう……トラブルを引き寄せるんだ?
 まあ、あたしがあたしでなければ、こいつもただの嫌味なばあちゃんとして出会って別れていたのかもしれないが。
「ワシはもともとガーヴ様の配下……。あんたのことは、ガイリアシティで見知っていてね。フォーブスで見かけてから、これは美味しい素材じゃと思って、追っかけをしとったんじゃ」
「うん……そっかあ」
 あたしは仕方なく相づちを打った。
「もうちょっと美味しい思いができると思ったんじゃがのう……」
「じゃ、正体バレて思惑通りいかなくなったところで、おとなしくフォーブスに帰るってのはどう?」
 こんな奴を町に返すのもどうかとは思うが、そこはそれ。
 あたしだって意味なく魔族と戦いたくなんかない。
「そうじゃな」
 ばあちゃんはうなずいた。
「じゃが、ワシの正体を知った人間を、すんなり行かせるわけにもいかんでのう」
「勝手なことゆーなっ!」
 いかんでのう、じゃないだろう。いきなし出てきて、ぺらぺらしゃべっといて。
「この占い婆の扮装は気に入っとるんじゃっ。あんたに正体バラされたら台無しじゃろ?」
「そんな些細な理由で……?」
「ワシら魔族が人間を殺すには、充分すぎる理由じゃよ」
 魔族らしい物言いではある。
「それに、上司からもよろしく言われてしまったんじゃ」
「上司……?」
 魔族が上司と言えば、自分より高位の魔族ということになるが……。
「いかなリナ=インバースでも、ワシなら勝てるかもしれん、機会があればやってみよ、とな」
 なるほど……魔族たちも、魔王の腹心を倒せる人間を完全放置するほど甘くない、というわけか。
 ばあちゃんとあたしは、にらみ合いながら笑った。
「すごい自信じゃない、ばあちゃん。あんた、あたしがフィブリゾを倒した魔道士だって知ってるんでしょ?」
「知っとるわい」
 ばあちゃんは不気味ににこにこ笑った。
「知っとるが、剣士ならともかく、ワシは魔道士には負けんよ」
「……どーゆー意味かしら?」
「自己紹介がまだじゃったな」
 ばあちゃんの黒いローブの裾がめくれあがり、下から髪の毛のようなものがどっさり出てきた。
 ずげげげっ!
 あのローブの下……人間の体じゃなかったんだ……。
 道理で、狭い場所の移動にも困らないはずである。あの状態なら、どうとでも形を変えて動けるだろうし。
 想像したら気持ち悪くなった……。
「我が名はアズレイヤ。心を読む占い婆。このワシ相手に魔道士のお前がどう戦うのか、とくと見せてもらおうか」

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