本当に、身を任せているばかりだったんだけど。
ガウリイのリードはやたらと上手くて、いつの間にかあたしは頭も働かなくなり、ただ与えられる刺激に声を上げるばかりになっていた。
「すげえ濡れてる」
言われて、足の間のぬるりとした違和感が気のせいではないことをやっと確信する。
「えー? なにそれ、なんでそんなんなるの?」
少し回らない口でぼんにゃりと言う。
「感じてるってことだろ」
「なんでえ? 感じる、と、濡れるの? どこが?」
ガウリイはしばし手を止めて黙った。
「ちょっと待て」
その背中がじとりと汗ばんだ気がした。
「お前さん……こーゆーの詳しくない、って、ホントになんも知らんのかっ?」
「あによー。だからそぉゆったじゃん」
「え、だって、18にもなって」
「19よ」
「なおさらだろっ」
薄暗い中でも、ガウリイが困ったような泣きそうな顔をするのが分かる。
「もしかして、これから何をするのかも分かってないのか?」
「これから、って? もうしてるじゃん?」
「そうじゃなくて……これは準備であって……な? その先は……分かってるか? 分かってるよな?」
「え、えーと……たぶん?」
「たぶん? じゃ、じゃあ言ってみな。これから何するんだ?」
「ええ? 何って……えーと……その……男の人のものを……どうにか、する?」
言葉を発するたびに、なんだか空気が重くなっていくのがわかった。
ガウリイはがっくりとうなだれた。
「オレが悪かった。リナは本当にまだ心の用意ができてなかったんだな」
さらさらの金髪があたしの両脇についた腕の上から降りかかって、ガウリイの表情を隠してしまう。
あたしは本当にまともに知識を得る機会もなく、たとえば旅の途中に立ち寄った酒場で、たとえば野盗たちの粗野なからかいで、その行為がどんなものか断片的に想像するしかなかった。だから、本当に知らないのだ。
どうやら、あたしの考えは甘すぎたようだった。
彼は沈黙の後、うめくように言葉を押し出した。
「やめよう……か?」
正直、やめる、と言ってしまいたくなった。
だけど、1度口にしたことをたがえるなんて、しかもそれが『怖いから』だなんて、そんなことはできないっ!
少しだけ迷って、だけど思い切って、あたしは先ほど言った言葉を実行した。
「あぐあっ!?」
うつむいた顎にアッパーカットをかますと、ガウリイは顔を押さえてのけぞった。
「な、何するんだっ!?」
「これ以上やるのかとかなんとかぐだぐだ言ったら殴るって言ったでしょ!」
「う……うぅむ……しかし」
「このあたしに二言はないのよっ!」
「そうとも言えない気がするが……」
大きな手で顎を押さえたまま、ガウリイは苦笑する。
「……わかった。じゃあ、オレが教えてやるよ」
なんかそれも癪だけど。
そう返す余裕はなくて、すっと真剣な表情になったガウリイが手のひらを滑らせると、あたしの体はまた簡単に跳ねた。
体の奥深くに、ガウリイの太く骨ばった指がずぶりと沈む。
そこに、女としての性を象徴する亀裂があるのはさすがに知っていた。あの日に血を流す場所。子供をはぐくむ場所。そう、知識としては知っていた。
けれどもそれに興味を持ったことはなかったし、こうも無造作に他人の指で押し開かれることなんて、想像したこともなかった。普段はあるのかどうかすら分からないようなものなのに。
「……あぅっ」
あたしは小さく悲鳴のような声を上げてのけぞる。
ガウリイがその背のアーチにすっと腕を差し込み、背中を支える。安心させるように、あるいは逃がさないように。
「え……あにこれ……」
どこか暗い目、いや欲情をたたえた目でガウリイが笑う。
「ここが、リナの大事な場所」
指を挿れられたときには衝撃だけだったのが、落ち着いてくるとじんわり不思議な感覚に変わっていく。もどかしいような、熱いような、ぐにゃりと濡れていく感覚。
閉じられた場所をいっぱいにこじあけて入ったガウリイの指が、体で感じられる。自分の中がガウリイで満たされる、そんな感覚。
「きゅって締まった」
嬉しそうに言うガウリイに、恥ずかしさでもだえるあたし。
「へ、へんなことゆーなっ」
「早くしたい」
なんだか真面目な顔でそんなことを言って。
「痛くなさそうだな。動かすぞ」
「え?」
次の瞬間、ガウリイは遠慮なく指を動かし始めた。
ぐっと曲げられた指で、いっぱいだと思われた体の奥の秘密の場所がさらに強烈に開かれる。お腹の側に押しつけるようにしてひっかき回される。
その衝撃は、指を挿れられた時の比ではなかった。
「あ……あっ……ああっ!」
抑えようもなく唇から嬌声がもれる。
その声は甘さと色気にあふれていて、とうてい自分のものとは思えない。
なんつー声を出してんだあたしはっ!
そう自分にツッコミを入れたいが、とてもそんな余裕もない。
こんな、普段まるっきり存在感のない場所が、こんなにとんでもなく敏感だなんて知らなかった。体の中を人の指でかき回されることがあるなんて知らなかった。自分の体が、痛み以外の感覚で制御できずに跳ね回ることがあるなんて知らなかった。
「ま、まって、ちょ」
あえぐ声の隙間に懇願するが、やたらと熱い声できっぱりさえぎられる。
「ダメ。痛い以外の理由は認めない」
「え、ええ? じゃ、じゃあいたいとゆー、こと、で……っ」
「ウソだろ?」
笑って、それでも少し動きを止めてぐっと指を奥まで押し込んで。
ガウリイはむしゃぶりつくようにあたしの唇を奪った。
あ、ダメだ、なんだろこれ。キスまでさっきよりずっとぐらぐらする。きゅぅとあそこが引き絞れるような感じがして、ガウリイの指を感じる。
「リナ、リナ。気持ちいいか?」
「ん……あ……っえ……っ? こーゆーの、気持ちい、って、ゆーの?」
「たぶんな」
笑ってあたしの唇をついばむガウリイ。
いやいやいや。
気持ちいいって感じじゃないしこれ。
嵐みたいで、翻弄されて、自分っていう意識が壊されそうになる。
こういうのを、快感、っていうのか。
確かに、わけが分からなくてきついのに、なんだか癖になる。止められると、もっと、って思ってしまう。
えっち、って。
こういうことだったんだあ……。
「……挿れていいか?」
熱い吐息で囁かれて。
いましも納得して満足しかけていたあたしは、ぽかんとした。
「……あにを?」
「えーと。だから」
ずるりとあたしの体の中から指を引き抜いたガウリイは、密着した体を少し離し、その指で自分の股間を指さす。
「これを。今指を挿れてたとこに」
あたしは目を見開いてソレを見つめた。
男の人に、男性器というものがあるのは知識として知ってたけど。
そんなにおっきいの!? 今までどこにあったわけ!?
てゆーか、指1本でいっぱいいっぱいだったのに、そんなの入るわけないしっ!
「……え、うそ、ムリ」
「『ムリ』ぢゃない」
「なに、痛いって、そーゆーこと? 痛いじゃすまないでしょ、それ」
「いや、そこまで言うほど痛いわけじゃないと思うけど」
「あんたはっ挿れられたことないでしょーがっ!」
あたし、ちょっと涙目。
「そ、そりゃないけどさ。だから、指で慣らしてたんだって。指は全然痛くなかったみたいだし、たぶん大丈夫だぞ?」
「てきとぉななぐさめ、ゆーな!」
慣らしてた、だと? あれが?
それであたしは十分限界だったし! これからが本番なんて、そんなのウソだ!
「あ、あの、やっぱりあたし……」
逃げ腰で言いかけると、ガウリイはきっぱり答えた。
「ダメ」
「だ、ダメ?」
「おう。いくらオレでも、そんな甘いことは許さん」
「……あぅ……」
小さくなるあたしに、すっとガウリイが顔を寄せて。
肩から二の腕にかけてゆっくりとなでながら、胸の突起を吸い上げた。
即座に反応するあたしの体。もう、ガウリイの指先ひとつで簡単に惑わされてしまう。
空いた方の指がふとももをすべって、摩擦がなくなるほど濡れた1番敏感な場所をなでる。
声もなく震えるあたし。
ゆっくり、でも的確に追いつめてくるガウリイ。
「……いやじゃ、ないだろう?」
なによ。結局弱気になって。
あたしは息を弾ませながら何も言わずにその大好きな顔に手を添えて、キスをせがむ。
ガウリイは動きを止めてキスをくれる。
「……ほんとは、少し、怖いわ」
「ああ」
「ん……でも、よくわかんない。だって、この先どうなるのか、わかんないんだもん。だから、あんたがしたいって言うなら、まあ、いいかな、とも思う。きっと、あんたはあたしにひどいことなんか、しないし」
生真面目に聞いている顔に、ちょっと笑う。
「たまにはあんたに任せて、いいわよね?」
首をかたむけて少しだけ考えて、ガウリイは、ちゅ、と軽い口づけをした。
鼻先がふれそうな距離でじっと見つめて、こぼされたのは熱いささやき。
「――リナが欲しい。リナの中に入りたい。間違ってるとは思わない」
照れくさくて、でもなんだか嬉しくて、あたしはうなずく。
「うん。あんたのしたいようにしてよ」
ガウリイはあたしの額に口づけると、両手で足を左右に開いた。恥ずかしさと緊張で息が詰まる。
腰をすり寄せられ、濡れきったそこに何か柔らかいような堅いような今までにさわったことのない感触のものが押し当てられる。
これがガウリイの?
答えを求めて見上げたガウリイの顔は、今まで見たどんな顔とも違う余裕のない男の顔だった。
「――力抜いてろよ」
「う、うん」
そう言われても、緊張で体が強ばる。
意識して深く息を吸って、強ばりを解くようにゆっくり吐き出したところで、それに合わせるようにぐいと腰が押しつけられた。
「……いぃ……った……っ!」
頭の中に火花が飛んだ。
正直、指を挿れられた時は快感といえるものがあったから、もっとおっきなのを挿れらたらどうなっちゃうんだろうという恐怖とともに、若干の期待があったのだけれども。
そんなのはまったくもって甘かった。
胸が苦しくなるほどの圧迫感。引き裂かれる痛み。ちょっとさわられるだけで体が飛び跳ねてしまうくらい敏感な場所が、悲鳴を上げる。
冗談ではない。
そりゃあ今まで何度も大けがをしてきているけれども、それでも痛いもんは痛い。
「……あ……すっげえ、狭い。リナん中」
ガウリイがうめく。
聞いたことのない甘い声に、あたしは奥歯をかみしめながら固くつむっていた目を開けた。
ガウリイは、軽く顔をしかめて何かに耐えている。それは辛そうでありながらそれだけでもなくて、あえぐように開いた口はなまめかしい。
「……気持ち……い……の? ガウリ……」
ガウリイは目を細めて唇を歪ませながら笑った。
「……おう。気持ちいいぜ。すげえ、いい」
「そ……なんだ」
「痛い、か? 痛いよな」
「ん……正直、痛い。でも……ガウリイが、気持ちい、なら、まあ、いっか……」
ガウリイはぎゅっとあたしを抱きしめてくれて。髪に額に頬に唇に、たくさんキスをしてくれた。
そうするうち、衝撃的だった痛みも少しずつ散って、鈍い痛みに変わっていく。
多少の余裕ができて、ふと、ああ今あたしの体の中にガウリイの体の一部が入ってるんだなあと思う。それはすごく不思議な体験だった。
「……動くぞ」
「え、動くって」
またもやきょとんとするあたしに、ガウリイはもう分かってると言いたげに笑ってあたしの髪をなでる。ちょっと何かを耐えるような顔で、早い呼吸をしながら。
「痛いと思う。でも、もうやめるかとは言わないからな。最後までするぞ」
「……最後」
「オレがイくまで、ってことだ。それ以上は実践で」
そしてガウリイは、本当に動き始めた。
最初は、体の奥にもっと入り込もうとするようにぎゅっと押しつけて。あたしがそれに慣れてくると、あろうことか1度抜きかけてまた入れるというとんでもない動きで。
覚悟したほど激しい痛みはなかった。
ガウリイが優しくしてくれてるんだろうか。それとも、こういうものなんだろうか。
ただ、最初ほどではないけどやはり動かれるたびに押し寄せる痛みと、それと渾然一体になって押し寄せる強烈な感覚の波に、ゆっくりものを考える暇もない。
「あぅっ……ああっ……あ、はあ……っ!」
恥ずかしいとか我慢するとかいう理性のボーダーを軽く乗り越えて、打ち寄せられる律動のままに声を上げる。
脳のど真ん中に杭を突き立てられて揺さぶられているような、圧倒的な波。
なに、これ。
なに。
自分が保てなくなる。ガウリイの与えてくる波に持っていかれてしまう。感覚が全部ガウリイのものになる。
怖い。すき。怖い。すき。すき……。
体の真ん中がきゅっと締まって、ガウリイがうめいた。
「リナ……イく……っ」
だからイくってなによ、とかすかに思ったけれども、そんなことを真剣に疑問に思っている暇なんかなかった。
ガウリイの律動が激しくなり、あたしはもう何も考えられないくらい翻弄されて声を上げる。ガウリイの荒い息が重なる。
痛くて怖い。その強い衝動に、わけの分からないくらいの勢いですきという気持ちが混ざる。すき。ガウリイがすき。
「……く……ぅっ」
ガウリイの背中が大きく震える。
ひときわ強く打ちつけた動きがそこで止まり、一気に引き抜かれる。あたしの手を握る手に力がこもる。
お腹の上にぱっと温かいものが散った。
……それが、終わりらしかった。
タオルで簡単に体を拭いてもらって、あたしはたるっとしながらガウリイの腕枕に甘えている。ガウリイの大きな腕の中にいるとすっぽりと包まれてしまいそうで、ひどく心地いい。
ガウリイはともかくあたしは動いたというほど動いてないんだけど、信じられないくらいだるかった。ふわり、ふわり、と眠りの世界に誘われていきそうになる。
「……どうだった?」
あたしのほっぺを指先でつつきながらガウリイが笑う。
「痛かった」
「すみません」
ガウリイはしゅんとする。
それもまぎれもなく本音なんだけど。でもまあ、それだけというわけでもない。
「……こういう、もんなのね」
「おう」
「ちょっと、驚きの体験、だった」
「そっか」
「戦ってる時以外でガウリイが必死なとこなんか初めて見たし。おもしろかった」
「をい」
じと目でにらまれる。
あたしは笑った。
「……まあ、痛いの我慢した甲斐は、あったかな」
頬をなでて、あごをくすぐって、首筋をたどって、くすくす笑うあたしを、ガウリイは幸せそうで少しだけ後ろめたそうな目で見る。
「リナがこういう方面に疎いのはなんとなく分かってたからさ。もっとゆっくり時間かけていくつもりだったんだ。リナに受け入れる用意ができるまで、いくらでも待とうと思ってた。まさかここまで何にも知らないとは思ってなかったけど」
よけいなことを思い出したのか含み笑いをするガウリイの唇を、あたしはぐいっと引っ張る。
「いててて……」
「何にも知らない乙女に、よくも好き放題やってくれたぢゃないの」
「これでも初心者向けにカンタンにしたんだぜ?」
「そうなのっ?」
「そーだよ」
ガウリイは笑い、あたしの唇を指でなぞる。
そして、ふいに少しだけ真面目な顔になった。
「こんな風に勢いでしちまって、後悔してないか?」
あたしは即座に答える。
「あたしが後悔なんかするわけないじゃない」
まあ確かに、よく分からないまま勢いでしてしまったのは否定しないが。
「……知って、よかったと思うわ」
「――そっか」
それ以上は言わず、ガウリイはあたしを抱き寄せる。
大きな肩に頬を寄せて、あたしは目を閉じる。
これも、初めて知った、安心できる姿勢。ぴったりとくっついて、ガウリイの匂いに包まれる。ほっとする場所。
これでよかったんだ、と思う。
あたしの知らないガウリイを知ることができて。
あたしも知らなかったあたしを、ガウリイに知ってもらうことができて。
エッチってそーゆーことだったんだ、とあたしは改めて思った。
END.
表の学園パラレルコメディを書いていて、あまりの健全さあまりのラブの少なさにトチ狂って書いた、ラブラブいちゃいちゃアダルト話。おかげさまで甘いです。
逃避で書いたにしては長いだろorz
リナさんは13歳くらいから1人旅に出たはずと考えると本当に何も知らなくても不思議はないのではないかと、ふと思ってつらつら書いていたのですが。ネタ的にわりとしっかりエロくなってびっくり。
まあ、1巻でヌンサにどうこうって辺りのリナさんの反応からして、まったく知らないということもないのでしょうけどね。