気が付くと、ガウリイがあたしを抱いて頭をなでてくれていた。
体はまだ神経がむきだしになったような状態のままで、空気が動くだけで震えている。
どうやら、深く達しすぎて一瞬気を失っていたらしい。
「あー……」
あたしが意識を取り戻したのに気が付いて、ガウリイがばつの悪そうな顔で笑う。
「ちょっと、やりすぎたかなあ……」
「……やりすぎよ……ばか」
声を出すだけで感じてしまいそうだったので、小声で囁く。
ガウリイは、軽く唇にキスをした。
「リナ見てるだけで、イくかと思った」
「……もー……」
「でも……昨日よりイイ、だろ……?」
確かに、昨日とは全然違っていた。
昨日のガウリイも優しいと感じたのだが、今思えばあれで余裕がなかったのかもしれない。酔ってたわけだし。
今は……あたしを感じさせることに集中してるんだもんなあ……。
そう考えて、ふと気付いた。
「あんた、もしかして……昨日の自分に、やきもち焼いてない?」
ガウリイは、少しだけふくれたような顔をした。
「……妬いてる。すごく」
呆れて、ため息が漏れた。
「ちょっと……ばかねえ、なんでよ」
「だって、リナの初めてを取られたんだぞ」
「あたしはあんたとしか寝てないわよ……まったく」
あられもない行為をしているせいだろうか、いつになく子供みたいに素直なガウリイに苦笑が漏れる。
「だけど……今日の方がいいだろ?」
「はいはい」
「他の男には、やらないからな」
「わかってるわよ……」
だから、始めからあんたにしか抱かれてないっての。
「入れて……いいか?」
「……ん」
もう、あまり怖くはなかった。
ガウリイなら優しく気持ちよくしてくれるんだろうと思ったし、たとえそうでなくてもよかった。
この男の好きなようにすればいい、と思った。
両足を抱え上げられ、そこにガウリイの体が割り込んでくる。
固くてやわらかい不思議な感触のものが、熱を持って潤むその場所に当たる。上下にゆるゆるとこすられて、慣らされているのがわかる。
「怖くないからな」
あたしは黙ってうなずいた。
両腕を伸ばして、ガウリイの腕を掴んだ。怖いからというより、ただ触れていたかった。
ガウリイは、あたしの中にほんの先っぽだけ入れて、また腰を引く。その繰り返しで、ゆっくりと中に入ってくる。少しずつ、少しずつ。
さっき快楽を引き出されたそこは、その行為のもたらすかすかな快感さえも拾い上げる。
それが行き来する度に、甘いため息が漏れてしまう。
「は……うん」
ぐっと半ばまで入って、また抜けた。
今度は奥まで入れられる、と息を整える。
息を吐いた途端それはぐいと奥まで入り込んできて、あたしの体の中を広げた。
中に入ってきたものの分だけ、肺が狭くなったような気がした。
「あ……う」
「……痛いか……?」
あたしは小さく首を横に振った。
痛みはない。……いや、その部分の肌がちりっと引きつれていたが、痛みと言うほどの痛みではない。
それ以上に……重みを感じた。
そんな小さな部分の重さなんか、わかるはずもないのに。
「はあ……はあ……」
息苦しいような気がして、大きく呼吸を繰り返す。
胸がそれに押し戻されてしまうような錯覚を覚える。それほどに、入ってきたものはあたしの中で大きな部分を占めていた。
「しばらく……このままな」
「平気よ……ちゃんと、ガウリイが……気持ちいいように……していいから……」
「オレも気持ちいいから……大丈夫だ」
こんなに穏やかなのじゃ、満足できないだろうに。あくまでもあたし優先にしてくれるつもりらしい。
そう言ってくれる優しさに甘えて、抱いていて欲しいとガウリイの腕を引き寄せる。
あたしたちは、重なるように抱きしめ合う。
深い満足感が、あたしを包み込んだ。
自分が溶けていくみたいだ。液体になって、ガウリイの中に溶け込んでいく。
「リナ……リナ……」
あたしを呼ぶガウリイの声が、甘い水飴のように降りかかってくる。甘さが体の中に染み込んで、肌を粟立てた。
ガウリイも溶けるような気持ちを感じているのだろうか。
二人して溶けていく。ぐちゃぐちゃに絡み合って、一つになる。
「ガウリイ……」
呼ぶ声に応えて、何度もやわらかなキスをしてくれる。
あたしもガウリイの頭を抱えて、その唇と舌を引き寄せる。
もっと絡み合って……もっと一つに。
「ん……」
ガウリイが、小さく声を漏らしながら腰を揺らした。
中の感覚は鈍くてよくわからないが、ガウリイの感じる部分にこすれているのだろうか。ガウリイも、気持ちよくなっているのだろうか。
そうだったらいい。
二人で気持ちよくなりたい。
「気持ち……いい?」
「ああ……すごく」
もっと気持ちよくしてあげたいけど、今のあたしにはどうしてあげればいいかわからない。
だからせめて、ガウリイの好きなようにさせてあげたくて、ささやく。
「……あたしに遠慮しないでいいから……動いて」
「……っ」
ガウリイの腰の動きが、少し大きくなった。
奥にこすり付けるように円を描いて、時々止まって、また動く。
気持ちいい、というのとはまた違うけれども、普段けして触れることのない場所にガウリイのものが押し付けられる感覚は、深い陶酔を呼んだ。
体の中をかき回されて、スープのように溶けていく。そんな想像をした。
「リナ……痛くないか……」
快楽に顔を上気させながらも、ガウリイはあたしを気遣って呼ぶ。
「ん……大丈夫……大丈夫だから、もっと……」
「ああ……」
昨日は、と思いかけたけれどもやめた。
昨日のことは忘れてしまおう。たまには、ガウリイの物忘れ癖を真似てみるのもいい。
今、一つになっていることだけ、わかっていればいいい。
「もう少し……動くが……痛かったら、言えよ」
「ん……」
中から出ていくように、ガウリイの腰が引いた。
一緒に体の中身を引き出されるような気がして、声が漏れた。
「は……あ……っ」
出ていきかけたそれは、入り口近くで止まってまた戻ってくる。内壁がこすれて、痛みにも似た刺激がびりびりと伝わってくる。
最奥を槌で叩かれた時、どん、と衝撃があった。
痛くはない。だけど、刺激が強すぎて重い。
また抜かれて、また戻ってきて。
中を往復される度、動きに合わせて声を上げてしまう。
気持ちいいのかなんなのかわからない。とにかく、耐えていられるものじゃない。
あたしは、ガウリイの背中にすがりついて、声を上げながらその衝撃をなんとか受け止める。
「中で気持ちよかったとこ……ここだよな」
あたしが慣れてきたと思ったのだろうか。ガウリイが少し体を起こし、中に当てる角度を変えた。
それだけのことだったのに、感覚が全く変わった。衝撃の強さはそのままに、紛れもない快感に変わる。指でされた時の比ではない強い刺激が、さっきさんざん責められた場所に当たる。
気持ちいいと感じる引き出しを開けっぱなしにされたようだった。全身を陶酔が貫いて、揺さぶっていく。脳の奥まで突き抜かれたような気持ちになる。
「ああ……っ」
「ん……いいか?」
「いいって言うか……あっ……これ……」
「ああ……」
「すごくて……変になっちゃうっ……!」
「変に、なっちまえよ……」
容赦なく突かれて、衝動のままに声を上げる。
突き上げる固い槌が、あたしの体をばらばらに壊していく。
理性も、羞恥も、恐怖も、快感という概念すら壊されて、粉々になる。ただ、感じるだけ。そのものすごい衝撃に翻弄されるだけ。
これ……このままいったら、どうなるんだろう。
本当に、壊れるんだろうか。
本当に、一つになれるんだろうか。
「はあ……まだ……これじゃ……イけないよな」
まだイかせること考えてんのか。殺す気か。
「もう……いいってば……もう……!」
「ここ……」
重なり合った体と体の間に、ガウリイの太い腕が割り込む。
ぎゅっとお腹をつぶされるような感じになる。もとから狭い体の中がさらに狭くなり、ガウリイのものがお腹の中に押しつけられる。
「んんっ……!」
指先がそろりと忍び込んで、繋がった部分のすぐ上にある尖った部分を探り当てた。
衝撃が、快感が、一つの高い波になって押し寄せる。
「やああっ……! そんなの……いいから……!」
「気持ちいいか……?」
「気持ちいい……気持ちいいけど……!」
もはや完全にいじめだと思う。
律動が、一番敏感な部分をも揺らす。
中の鈍くて強い衝撃とはまた違う、鋭い快感の針がその場所を突き刺す。荒っぽい刺激で吹き飛ばされていた感覚までも、一点に集中していく。
粉々になった自分を、さらに細かく砕いていくような、繊細で強烈な快感。
もう、散り散りになって死んでしまう。
ガウリイの中に溶け込んでいく。
「リナ……リナ……」
名前を呼ばれたら、自分が壊されていく恐怖さえも、甘い快感に変わった。
「ガウリイっ……あ……ガウリイっ……!」
あたしも、必死にその名を呼ぶ。
波が強く速くなっていって、あたしをさらってしまおうとする。
「ガウリイ……すき……もっと……」
「リナ……好きだ……」
「うん……うん……」
どんどん動きが速くなっていく。
ぼんやりした意識の隅で、イくのかな、と思う。
一緒にイきたい。一緒に……。
このまま気持ちいいところに集中すれば、きっと……。
高まっていく波に、初めて意識的に乗った。
怖くない。一緒に昇り詰めたい。それだけだった。
「い……イっちゃう……っ!」
頭を引き絞るような絶頂感。
息もできないほどの快感。
「中に……昨日は……中にしたのか……?」
「あ、うん……うん……」
「……っ」
何も考えずに答えると、ガウリイが躊躇なく奥に入れてくるのを感じた。
一際強い力で体奥を貫かれて……。
後のことは、よくわからなくなった。
ふと、ガウリイが中から杭を引き抜くのを感じた。
「あー……」
また一瞬のブラックアウトに陥っていたのかもしれない。
中からそれが抜けた時、朦朧とした意識の中でもはっきり喪失感を覚えた。自分の体の一部を取り去られてしまった、そういう感じ。
「ん……んー……」
何か伝えたかったけれども、声にすることはもちろん、きちんとした思考にすることもできなかった。
全身がまだ震えている。
ゆっくりと息を吸って吐いて、人としての機能を取り戻すのが精一杯だった。
「リナ……」
「んっ……」
そっと肩をなでられて、びくりと跳ねてしまった。
「……あ、すまん」
まだ、体はおかしいままだ。
だけど、深い倦怠感と満足感があって、これ以上さわってほしいとは思わない。やっぱり、この体は二人が繋がるためにこうして感じていたのだと思う。
「……リイ……」
「ああ……」
ガウリイは、あたしを両腕で抱きしめる。肩口に頭を挟み込んで、ざらっとした肌をあたしの頬に押しつける。
そうして、しばらくそのままじっとしていた。
昨日は、痛みから解放された安心感の方が強かった気がする。こんな深い満足感を覚えることはなかった。やっと本当に繋がれたのだと、そういう気がした。
同じ満足感を、ガウリイも感じているだろうか。
「……好きよ」
「……おう」
びっくりするくらい、さらりと言えた。ガウリイも、当たり前のように受け止めていた。
あたしたちはばかだな、と不意に思う。
こんだけ好き合っていたのに、遠回りばかりして、ばかみたいだ。
きっかけは、お酒に飲まれたからなんて間抜けなことだったけれども、お酒はあたしたちの気持ちまで歪めたわけじゃない。照れやためらいで押し留められていたものを、解放しただけ。
こうなるべくしてなったのだと、そういう気がした。
「昨日より、よかっただろ?」
つぶやきながら、ガウリイはあたしの胸のふくらみの下あたりに口付ける。
吸い付かれて、わずかな痛みがあった。
「……何?」
「……キスマーク」
目線だけ下に向けると、胸に小さな赤い点が付いていた。
軽く内出血した跡のように見えるが……キスマークって、こういうものだったのか。
ガウリイは、出来を確かめるように指先でそこをなぞる。なぜか、妙に真面目な顔をしていた。
そういえば、キスマークというのは、他の男に体を見せられないように付けることもあるとか。意外な気がするが、独占欲なんだろうか?
昨日より昨日よりってずいぶんこだわってるみたいだけど……。
「もしかして、やきもちであんなにムチャクチャやってたわけ……?」
「ムチャクチャだったか?」
「だったわよ。ほんとに壊れるかと思ったでしょーが」
「そうかー? もっとできるけど……」
遠慮しておきたい。
「昨日より絶対感じさせてやる、ってのはまあ、あったかなー」
「中に出すし……」
「だって……オレがしてないのに、リナに子供ができたら、ショックだろ?」
どっちにしろ、やったのはおまいだけだ。
「意外と、独占欲強かったのね」
「そうでもないと思うが……好きで、したんだろ?」
「は?」
「だから、昨日さ。好きだと思って、したんだろ?」
「……あんたのことをね?」
「まあ、そうなんだが……」
なるほど……。
つまり、こういうことだ。
ガウリイは、昨日の自分が赤の他人に思えているらしい。
で、あたしがただ別の男と寝ただけならまだしも、その男に本気で恋して身を任せたように思えてしまってしょうがないと、そういうことである。
そうだとすると、カメのごときのんびり屋のガウリイだって、やきもちくらい焼くだろう。
バカな妄想だけど。
ため息を付いて、胸元のキスマークをなぞる。
「……いいだろ、別に」
ガウリイが拗ねたような顔をする。
「いいわよ、別に?」
他の男と寝るわけもないんだから、困らないし。
「あたしもする」
「おう」
ガウリイは神妙にうなずいた。
あんたも他の女と寝るんじゃないわよ、という無言の念押しが通じたらしい。
ころんと体を倒して、となりに寝ているガウリイの胸の上に体を預ける。
分厚い胸の上に顎を乗せて、指先でキスマークを付けるべき場所を探った。
まあ、いつもハイネックのシャツを着てるから、どこに付けたって困らないだろうけど。
「んー……」
思い切り吸い付き、ついでに歯を立てて、がっちりと跡を残す。
「こら、痛い、噛まなくていいんだよ」
「んふふ、当分消えないわね」
ガウリイの胸に咲いた赤い花に、満足する。あたしが付けられたのより、明らかに濃くて大きい。虫さされと誤魔化せるようなものではない。
これは、人には見せられまい。
「お前な……」
「別に、問題ないでしょ?」
「ないけどな……」
あきらめたようなため息を付いて、ガウリイはあたしの頭を抱え込んだ。
これで、ガウリイはあたししか抱かない。
あたしは、ガウリイにしか抱かれない。
人に拘束されることなんか大嫌いだったはずなのに、なぜか心のどこかが緩んだ気がした。
一緒に旅をするのに理由はいらないだろ、と言ったガウリイ。
二人でいるのが当然だよな、と確認したも同然だった。あの時も、あたしたちの間に見えない鎖が存在することを意識した。
それは、不思議にいやな感覚ではなかった。
そして今も……。
見えない鎖をもう一つ付けて、満足している自分の変化を不思議に思った。
それが、恋心とやらのなせる魔法だったのかもしれない。
END.
なんか、色々言いたいことがあったような気がするんですけど……。まあいいや……。
『それは心を繋ぐもの』と微妙に相似形を描いているのは、あそこから派生した話だからです。カットしたエロ部分を膨らませたとも言う。
こんな話ですけど、頭が呆けるほど本気で書きました。
没頭しすぎて、疲れて動けなくなりましたよ……。