所長室を出て、ぼーさんたちの視線に笑顔で返して、あたしはナルの手を引いて
半ば無理矢理に彼を連れ出した。





--+--- Love and Hatred --+---
〜fanatical〜  


BY ニイラケイ







     
 
本当を言うと、まだ少し歩くのは辛い。
下腹部に残るナルに与えられた痛み。
繋いでいる手から、この感情は通じてしまっているかもしれない。
歩き方だけで、気付かれているかもしれない。
(もう、構わない)
見られて困るものなんか無い。
あたしには、隠すものなんて残ってない。
あたしはあたしなんだから。
あたしのままでいれば良いんだから。












「さぁ、食べて!」
テーブルに並べた料理の山に、ナルは呆れている。
ナルの手に箸を押しつけても、受け取ろうともしない。
「食べて!」
「・・・こんなに作ってどうするんだ?」
「ナルが食べるの」
「食べきれない」
見るだけでうんざりする、とナルは押しつけられた箸を机に置いた。
「折角作ったのに」
「限度があるだろう」
「無い」
ナルの深い溜息を無視して、今度はあたしが箸をとる。
食べないんなら、食べさせてやろうじゃないか。
「はい」
箸で摘んだご飯をナルの鼻先に付きだしてやる。
彼は一瞬鼻白んで、次にあたしを睨んだ。
「自分で出来る」
「疲れてるんでしょ?食べさせてあげるって」
「遠慮する」
「・・・・どーしても嫌?」
「別に空腹でもない」
「じゃ、お腹空かせてきて」
「?」
「お風呂。汗かいたんだし、お風呂入るでしょ?」
その代わり、料理が冷めてるとか、あとで文句つけないでよ?
笑って立ち上がると、ナルが不意にあたしの腕を掴んだ。
そのまま引き寄せられて、唇を塞がれる。
舌を絡めて、身体の自由を奪って。
彼の望む全てを受け入れて、差し出す。
それで良いのかどうかなんて、あたしには解らない。
でも。
今はナルの体温が心地良いから。
ナルの舌に酔っていたいから。
・・・今だけ、ナルを独り占めできるから。



離れた唇は、湿り気を帯びて微かに光る。
「お風呂は?」
ナルの指が、あたしの喉を伝う。
「要らない」
「食事は?」
「あとで」
さっき着たばかりのブラウスを、また脱がされる。
「・・・こっちが先?」
「嫌ならやめても良いが?」
突き放すような言葉。
冷たい指。
でも、耳朶にかかる吐息は熱い。
熱くて、甘い。


「・・・やじゃない」


答えたときには既にソファの上に組み敷かれていた。












ナルの高ぶりを全て飲み込まされて、彼自身が果てたあと、
ナルはあたしの横に倒れ込んだ。
暫く肩で息をしていたかと思うと、
今度は、まだ思うように動けないあたしの身体に、意味もなく触れる。
胸に、頬に、唇に、肩に、瞼にキスをして、今度は大腿へ手を伸ばす。
「んんっ・・・・ぁ・・は」
まだ繋がれていたときの感覚が抜けないあたしを、ナルは何度も攻め続ける。
壊れてしまいそうなほどの快感。
もう、自分がどうなっているのかも解らない。
もう、何度交わったのかも解らない。
見えるのはナルの顔。
いつもとは違う、雄(おとこ)の顔。


「・・・な・・・る?」
「何だ?」
「ちょっ・・・休憩・・させ・・・・・」
「・・・ああ」
荒い呼吸とともに、吐き出した言葉は、思ったよりも明確にナルに届いたようだった。
ナルはあたしの秘部を弄っていた手を離し、先ほどと同じようにあたしの隣に寝転がった。
たった数十センチの距離ができた。
あたしとナルの間の、僅かな距離。

身を切られるほどの切なさを、あたしは知ってる。
泣きたくなるほど、消えてしまいたくなるほどの切なさを、知ってる。

あたしはナルを見る。
ナルの服は上着が乱れているのと、ズボンのチャックが降りているだけで、何一つ脱いでもいない。
あたしの服は、もう何時間も前から放置されていて、とっくに冷たくなっている。
(・・・寒くなってきちゃった・・・)
冷たい自分の服を身につけるよりも、隣にある人肌の方が暖かい。
あたしはナルに身体を擦り寄せた。
「麻衣?」
「寒い・・・」
ナルが急に起きあがった。
彼が動いた微かな風圧が裸の皮膚に痛い。
嫌みを言ってやろうとナルを見上げると、彼は自分の上着を脱いであたしにかけた。
そして、そのままもう一度横になると、今度はあたしを上着ごと抱き寄せた。



無言。
情事の間も、その後も前も、ナルからは甘い言葉は貰えない。
恋人たちがベッドの上で紡ぐような睦言は、決して口にしない人だ。
でもあたしはナルの声が聞きたい。
耳に触れるだけで戦慄が駆け抜ける、彼の声が。
「ナル・・・好きって何?」
「そんなことはぼーさんあたりにでも訊けば良いだろう。僕の分野外だ」
「じゃ、セックスって何?」
「子孫作成行為」
「・・・身も蓋もないね」
「そんなもの無くて良い。どうせ本能で動いているんだ」
「そっか」


それまで閉じていたナルの目が開いた。
まるで、自分の言葉に驚いたみたいに。
何度か瞬いて、ぼんやりとあたしを見る。
「ナル?」
「本能行動は、プログラムの内・・何だろうな」
「プログラム?」
「・・・いや、こっちの話しだ」
ナルは一人で納得したように、また口を閉ざした。
・・・何だよ、急に独り言?
あたしはあたしの存在を無視されたみたいで急に悔しくなって、
身動きできない代わりに、ナルのシャツを掴んで彼の顔を引き寄せた。
不意を付かれたナルの顔を視界の端に掠めながら、あたしは彼の形のいい唇を奪う。
「ま・い?」
流石に舌を絡めるまでは出来なくて、思いっきり重ねた唇を、またあっさりと離す。
と、ナルは明らかに意表をつかれたようで、あたしの顔を凝視していた。
「本能行動、でしょ?」
笑ってやると、ナルがふっと目を細めた。

それは、ジーンとは違う、優しい笑み。

ほんの一瞬現れた表情は、またすぐに消えてしまった。
あたしはそれが勿体なくて、どうしてももう一度見てみたくて、表情を無くしたナルに顔を寄せた。
「・・・麻衣?」
「・・・・・黙って」
「・ん・・・」
今度は唇を重ねてすぐに舌を絡めることを強要される。
舌先で下唇をつつかれて、舐められて。
気を抜いたところに、そろりと何かが侵入してくる。
腰に回された手で身体ごと引き寄せられて、あたしは全身の力を抜いた。



「ねぇ、笑って?」
「・・・は?」
「笑ってよ」
「・・・寝惚けてるのか?言う相手を間違えてるだろう」
「間違ってないよ、あたしはナルに言ってるの」
「出来ない」
「出来るよ、さっきしてた」
「さっき?」
「さっき笑ったでしょ?」
「覚えがない」
眉をしかめるナルに、あたしは微笑む。
「笑うとキレイ。笑って無くてもキレイだけど、笑うともっとキレイだね」
あたしには、ナルのような美貌はない。
ナルのような頭もない。
真砂子みたいに綺麗でもないし、
綾子みたいに格好良くもない。
まどかさんみたいに笑えないし、ルエラのようにはナルに接することが出来ないだろう。
当たり前だけど、ジーンの代わりにもなれない。

でも、だからあたしはナルの側にいる。

何の取り柄もなくて良い。
偉くもなくて良い、馬鹿でも良い。
迷っても泣いても傷つけられても、そんなことどうだって良い。
ナルがナルのままでいられるように、たったひとつでも何か出来ればいい。
そしたら。
(あたしはきっと、ナルの人生の欠片の一つになれる)
綺麗なこの人の、欠片になれる。


「ナルはキレイ。すごく、すごくキレイ」
「そんなに何度も言わなくても解ってる」
ナルの手があたしの髪を撫でる。
滑らかに動く白い指が、あたしの髪の中を泳いでいる。
「・・・気持ち良い」
「そう」
「頭撫でられると、愛されてる気がしない?」
「同意を求めるな」
「だって、頭撫でられるの好きなんだもん。・・・ナルは嫌い?」
「見下されてるみたいで、気分が悪い」
「天の邪鬼」
「おかげさまで」
ナルの指は、彼の口と違って優しい。
ナルの中には色んなナルが居る。
優しいナルと、冷たいナルと、怖いナルと、真摯なナルと、乱暴なナルと。
あたしは今、どの彼を見てるんだろう。
(・・・いくつ知ったら、この距離が埋まるかな)
この切ない距離が、埋まるときは来る?



「眠いなら寝ろ」
うとうとと船を漕ぎ始めたあたしに気付いて、ナルが声を掛けた。
「ん・・・まだヘーキ・・・」
「寝て良い。あとで運んでやる」
そういえばここはソファだった。
そんなこと、どうでも良いくらいに無我夢中だったから、とっくに忘れていた。
「でも・・・ご飯・・・」
「食べてやるから、もう寝ろ」
あたしはナルを見上げた。
もう視界が霞んで、ナルの顔がちゃんと見えない。
「・・・ほんと?」
「嘘は言わない」
その台詞が既に嘘だ。
あたしは言い返してやろうとしたけど、髪を梳いてくれるナルの指があんまりに気持ちよくて、 結局何も言い返せなかった。


















ことん、と身体の力が抜けて、麻衣がたゆたう夢の中へ旅立った。
麻衣の表情には明らかに疲れが見える。
何度も抱いた。
何度も何度も、気が遠くなるほど。


ずっと思っていた。
抱いても抱いても足りないなら、満たされるまで抱いたらどうなるだろう。
もう十分だと思えるほど、肌を重ねたら。

彼女がギブアップを告げるまで抱いた。
僕自身の身体もこれが限界だと悲鳴を上げている。
これが答えだ。
僕は満たされなかった。
もう吐き出すだけの精力は残っていないはずなのに、まだ疼いている。
「心」という、不可解な場所が。



さらりと、僕の指の隙間から麻衣の髪が滑り落ちる。
『女』とは不思議な生き物だ。
人間には二種類あって、一つは男、一つは女。
外見上、形にそれほどの相違点はなくとも、触れてみれば解る。
女は柔らかい。驚くほどに、柔らかく弱い。
肌の弾力だけではない。髪まで柔らかい。
華奢な項から、小さな額から、ただ生えているだけの髪が、これ程愛しい。
(・・・どうかしている)
麻衣の言うとおり、疲れているのかもしれない。
普段の自分ではあり得ない思い。



麻衣を見る。
既に意識は遠く彼方にある少女。
麻衣の身体を初めて手に入れたとき、
今と同じように夢へと歩き出した彼女を、咄嗟に殺してしまおうかと思った。
このまま殺してしまえば、永遠に手に入れられる気がした。

その時点で気付くべきだったのだ。



「・・・狂っていても、構わない・・・」






















精密機械は脆いんだよなと、数日後に顔を合わせたぼーさんがぽつりと呟いた。





 
     






・・ちゃんとオチてます?←オチが重要なのか。
あのあのあの・・・ハッピーエンドなんですが・・・一応・・・(T.T )( T.T)オロオロ
ハッピーくさくないですか??
あれ?駄目?っつーか、全体的にあんまり18禁っぽくなくてすいません><;;;
この話しを捧げる予定の某御方には「もっと激しくても良い」と言われましたが、←バラすな。
無理です〜・・・・。麻衣が壊れます〜・・・(笑)
道具使用も許可を得ましたが、結局使えませんでしたよ、ボス(笑)
ナルは(別の意味で)壊れてるしね。修復試みたけど失敗したしね。
(どこら辺で修復を試みてるのか、とか、そういう突っ込みは要らないです/笑)

実力不足も良いとこですが、実はこの話し書いてて、ある御方に
すっっごく嬉しい褒め言葉を貰ったりしちゃったので、
もう、それだけで満足です(^^/// ←自己満足の女と蔑んでやって下さい・・・。

この作品は、当初から予定していた通り、いつも大変お世話になっている蒼威さんへv
そして、本当に本当に嬉しかったので、褒めて下さった某方にも、捧げさせて下さいませ><////
本気で嬉しかったですvvv



そんなこんなで、こういう感じの終わり方ですが、皆様お気に召しましたでしょうか??;;;
初の試みが失敗に終わっていないことを、切に願っている私です・・・。(遠い目)



本編には全く関係ない、かなりどうでも良いハナシなんですが、
服がほとんど乱れてなくて、ズボンのチャックだけ降りてる姿って、
結構みっともないよね(滅)←自分で書いといて・・・・。




『Love and Hatred』のイメージで、小原なずなさんがイラストを描いて下さいましたv
こちらに設置してありますので、是非是非ご覧下さいませvvvv