シャドウ トライアングル 4

 そりゃあ感じたわよっ!
 恥ずかしくて言葉に出せず、あえぎ声を押し殺す。
 でも、昨日はそこを触られるまでそれほど快感を覚えていたわけではなかった。素肌を触られるのが単純に気持ちいいとは思っていたけれども、快感とは違うものだった。
 昨日と全然違う。こんな状態でそこを触られたら、どうなっちゃうかわかんない……!
「そんな緊張するなよ」
「だってっ……」
「んー……」
 軽くやわらかな口付けを、唇に落とされる。
「なあ……オレの名前呼んで」
「……が……ガウリイっ……」
 そう呼んだ途端、たとえようのない感覚が全身を駆け抜けた。
 愛しさ、と呼んでいいのかもしれない。だけど、そんな甘やかなものではない。羽毛の刷毛でぞわりと全身をなでられたような感覚。
 愛と欲の混じりあった感情。
 この人が欲しい、という感情。
「リナ……」
 ガウリイの顔も上気している。
 あたしが乱れるのを見て興奮している。あたしが欲しいと、その目が言っている。
 あれも大きくなってるのかなあなどと頭の隅で思ったけれども、確かめる度胸などとてもなかった。
 指先が足の付け根のあたりを何度もそっとなぞっている。感じる場所を避けて、焦らすような手つき。触って欲しいだろう、としゃべっているような指遣い。
 実際、ただ指で肌の上をたどられているだけなのに、体が騒いだ。その場所が脈動を繰り返しているのがわかる。
「……なあ、昨日はイけたのか?」
「やっ……だから……ンなこと言えるわけ……ないでしょっ……」
「いいじゃないか。オレとしたことなんだし……」
「覚えてないのが……悪いっ……」
「そうだけど……」
 不意に、ズボンの上から尖った部分をぎゅうと押しつぶされた。
「あああっ……!」
 そこで何かが小さく爆発して、全身に散った。
 一瞬の硬直の後にばたばたと足を上下させて逃げようとするが、ガウリイはそこを押さえたまま力を抜かない。
 最初の衝撃が過ぎても、絶え間なく快感が送り出されてくる。
「……なあ、昨日はイけたか?」
 頭の中身がぽんと吹っ飛んでいるあたしに、ガウリイはしつこく聞いてくる。
 反抗したいのに、反抗心が快感に押し流されてしまう。
「えっと……だからっ……それは……えっと……」
 言葉が浮かんでは、白い波にさらわれていく。
 強い快感の恐怖が過ぎ去ると、怖くて動いていたはずの体は、いつの間にかもっと強い刺激を求める動きに変わっていた。
 じたばたともがいて、無意識に摩擦を求めている。自分の動きで少しだけこすれる、その刺激を求めている。
 あ……どうしよう……何してんだあたし……。
「こうやって……イったのか?」
「あ……ちが……ちがう、イってない」
「イってないのか? 一度も?」
「ん……だって……初めてで……」
「うん」
「気持ち……よかったけど……そんな……簡単に……っ」
「そっか」
 なんでそんなに嬉しそうなんだ、まったくっ……!
 自分でしたことだろーが自分でっ……。
「今日は、イけると思うぞ」
「へっ……」
「こんな風になってたら……簡単にイけるから」
 いつベルトを解いていたのか、ガウリイの大きな手があたしのズボンの中に忍び込んでくる。
 指先がその場所に直接触れた時、もうそこは濡れてるなんてものじゃなく、蜜があふれてしまっているのがわかった。
「あふっ……」
 今度は強くはされない。
 触れるか触れないかのタッチで、すでに潤みきっているその場所を、さらにまんべんなく濡らすように円を描いて慣らしていく。
 怖くなるような刺激とは違う、やわらかい陶酔が体を溶かしていく。
 もう、ガウリイの思うがままだ。こいつは、あたしの体をどんな風にでも操れるのだ。
 そんな風に思ったが、それはけして嫌な感覚ではなかった。
「すごいな……」
 つぶやいて、ガウリイはそっと口付けをしてくる。
 唇を味わうような動きの後、舌が入ってきて、さっきたっぷりキスをされた時以上の快感に指の先まで震えた。舌でイっちゃいそうな気がした。
 これ……何事なの……?
「ん……ふっ……」
 キスに意識を奪われているうちに、指の動きが大きく強くなってくる。
 指がそこを弾く度に、脳の中を引っかかれているような気分になる。足が魚のように跳ねる。
 もう、怖いとか気持ちいいとかうまく考えられない。
 そこの刺激のことしか考えられない。
 さらわれていく。どこか高いところに乗っけられていく。
 指の動きが連続的になっていく。
 体を走り抜ける波が、高く高くなって、落ちなくなっていく。
 どんどん速い動きでこすりつけられるようになって、波は押し上げられていく。
 脳が浮き上がって、ひどく高い場所にいるような気がした。本能的な恐怖が、ぞくりと背中をなでる。
 落ちちゃう……!
「やっ……ガウリイ、変っ……やだっ……!」
「変でいいんだ……そのまま……」
「だって……でも……」
「怖かったら、オレの名前呼んでろ」
「が……ガウリイ……ガウリイ……ガウリイぃっ……!」
 落ちた。
 と思った。
 自分を押しとどめていた何かが、ぱんっと弾けた。
 宙に投げ出される恐怖。一瞬の浮遊感。
 そして落ちていく。
 だけど、簡単には解放されなかった。指が尖ったところを強い力で押しつぶして嬲る。消えない絶頂感に、足がぴんと伸びて震える。
 ガウリイの腕をつかんでいた手に力が入る。固いその腕を突き破ってしまいそうなほどに。
「んんんんっ……!」
 快楽の海に背中から落ちたような気がした。
 溺れてしまう。死んでしまう。
 飲み込まれていく。
 溺れる……溺れる……ああ……。
「あ……」
 ぱたり、と腕が落ちる。
 終わりがないかと思えた限界の快楽がやっと落ち着いた頃、ガウリイが嬉しそうに笑いながら額にキスをしてきた。それだけで、体がびくりと跳ねた。
「……リナ……めちゃくちゃかわいかった、今の」
「ん……は……」
 答えが返せない。
 蜜をあふれさせた場所が、断続的な痙攣を繰り返していた。その度に、快楽の残滓が弾ける。
 脱力して余韻に身を任せているあたしの服を、ガウリイがそっと脱がせる。どうせもうほとんど脱いでるようなものだったけど、とうとう裸身をさらしてしまった。
 恥ずかしいと思う気持ちはまだかすかにある。でも、体を隠す気力は残っていなかった。
 自分の服を脱いでいるガウリイを、ぼんやりと見上げる。
 綺麗な筋肉だ、と思う。あたし自身それなりに体を鍛えているから、わかる。ガウリイの体がどれほど綺麗に鍛えられているのか。
 その胸の中にいたい、と素直に思った。
「……ガウリ……」
 抱きしめて欲しい、という意思表示に腕を伸ばす。
 嬉しそうに笑ったガウリイが、体を寄せるように抱きしめてくれる。
「……リナ」
 上気した体と体がぴったり重なりあって、快楽とは違う次元の気持ちよさに吐息が漏れた。
 あたたかくて、優しい。
 ガウリイの体を得て、何かがぴたりと嵌まる。自分の体に何かが足りないなんて思ったことはないのに、こうして抱かれると、足りなかったのはこれだ、と思う。
「……びっくりした、気持ちよかった」
「おう」
「でも、声が……聞こえちゃうわよ……」
「んー……まあ、こんな時間、誰も部屋にいないだろ」
「そ……かな……?」
 あたしはガウリイの腕に指を伸ばし、さっきあたしが爪を立てたところを手のひらでなでる。
「痛かった……?」
「何が?」
「腕」
 ああ、とガウリイはからかうような笑みを浮かべた。
「爪を立てられた傷ってのは、男の勲章なんだぞ?」
「……男って、ばかよね」
 けだるいため息をついて、傷を癒すように何度もなでた。
「あたしも……なんかしてあげたい」
 ガウリイは笑って、頬に軽くキスをしてくれた。
「それもいいが……もうちょっと慣れてからな。今日は、お前さんに痛い思いさせないように、全力出すから」
「全力、って」
 もう十分してもらいましたけど。
「昨日は痛かったんだろ?」
「それはまあ……。でも……もう大丈夫だから」
「まだまだ……何されても気持ちいいくらいにする」
「え、いや……もう……していいわよ?」
「まだ」
 ちょっと……。
「むしろ、して欲しいんだけど……」
「う、それはグっとくるなあ……」
 ガウリイは苦笑いで顔を伏せたが、すぐに顔を上げてきっぱりと首を横に振った。
「いや、やっぱりまだだ。このまま入れたら、絶対痛い」
「しょうがないじゃん……まだ二回目なんだから……」
「うーん……」
 ガウリイは、あたしの手を握ると、その手を重なりあった体の間にそっと導いた。
 固く出っ張った部分に、指先が触れる。あたしもそれが太股の辺りに当たっているのは気付いていた。もちろん、あれだ。
 嫌ではない。嫌ではないが、たまらなく恥ずかしい。
 あたしだって、花も恥じらう乙女なのだ。
「これ、な……」
 手のひらでそれを包み込むように誘導される。
 昨日は、恥ずかしくてはっきり見ることも触ることもなかったのだが……こうして改めて触ってみると、ちょっと呆然とするくらいの体積があった。当然他の男の人のものなど見たことも触ったこともないが、こういうものなのだろうか?
 普段は気付かない程度の大きさしかないあたしの入り口のことを考えると、これを飲み込むには小さすぎるだろうという気がする。
「これ……昨日入れたの、あたし……」
「そうなんだろーな」
 昨日だってガウリイは優しくゆっくりやってくれたが、それでも苦労して入れていた。あたしももちろん痛かった。しかし、このサイズの不釣り合いを考えると、それも当たり前だという気がする。
 ガウリイが特別大きいのかどうかは知らないが、そもそもガウリイとあたしでは体格差がありすぎるのだ。こう言っては何だが、あたしは人より小さい。かなり小さい、と言われることも多い。逆にガウリイは、大柄な方である。だとすれば、それぞれのその場所のサイズが体格に釣り合ったものだとしても、合わせるのは困難、とそういうことになる。
「な? もう少し慣らしてやるから」
「慣らしたら……痛くなくなるわけ?」
 ちょっぴり緊張で体が固くなったのは、否めない。
 そんなあたしの目尻にキスをして、ガウリイはにやりと笑った。
「多少痛くても気にならんぐらいに、気持ちよくしてやる」
「……っ」
 もう十分気持ちいいのに……。
 それはそれで怖いんですけど……。
 やっと痙攣が来なくなって落ち着いていたあたしの体に、ガウリイが改めて大きな手のひらを這わせる。
 肩から腕へ、そして指先へ。
 指先をいじられていると、それだけでまた息が上がってくる。まだ感じやすい状態のままらしい。いや、絶頂の余韻が消えきっていないのか、さっきよりさらに敏感な気がする。
 汗ばんだ手のひらをなぞる指に、声が漏れる。
「あっ……」
 身を捩るあたしを見て、ガウリイが笑う。
 な、慣れてきたら絶対仕返してやるから……!
 心の中で誓うが、今日のところは仕返しなんてとんでもなかった。
 腰をなでられ、胸の頂に軽く口付けされると、もう全身が震えていた。ゆっくりと体中をなでた後、さりげない動きで指が秘所に潜り込む。
 衝撃に備えて体を固くするあたしをからかうように、指が敏感な場所の周囲をさまよう。一番気持ちいい場所には当たってないのに、伝わってくるかすかな振動だけでたまらなくなる。
 あたしの腕は、いつしか誘うようにガウリイの首に回されていた。
「ほんとに……もういいのに……」
「んー……まあ、オレも楽しいし」
 楽しいのか。
「リナ、気持ちよさそうだし」
「気持ちいい……けど……」
「もっと……壊れるまで感じさせちまいたい……」
 恐ろしいことを言う、と思った。
 だけどその裏で、ガウリイに壊されてみたい、と思った自分も確かにいた。
 知らなかった女としての自分に、目眩がする。
 返事もできずガウリイに見入っていると、達した後で尖りきっている部分を指で弾かれた。
「あっ、ん……!」
 指は、二、三回ノックするようにそこを叩いた後、するりともっと奥へ滑り込んできた。
 扉を開こうとするように、入り口をそっとなぞられる。何度かそうされている内に、力など込められていないのに少しずつ奥へ入ってきているのがわかる。ガウリイの指に応えて、扉が開いているのだ。
 ――入って来られる。
「ん……はっ……」
 体の中に異物を飲み込まされる違和感は、拭えなかった。
 だけど、昨日確かにあった痛みは全くなかった。
 痛みの代わりに、感じやすい場所を指でこすられる感覚が、昨日の痛みと同じくらいの強さで湧き上がる。
「……もう、中も感じるか?」
「ん……うん……なんで……」
 昨日は、どちらかというと痛みばかり感じた場所なのに。
 中に入れられて感じるなんて、男の身勝手な妄想じゃないかとまで思ったのに。
 指をゆっくり抜き差しされると、腰がぶるぶると震えてしまう。
「慣れたら……もっと、感じるようになるから」
「そういう……もん……なの……?」
「ああ……そのうちな」
 狭い場所を広げるように、指がやわらかな円を描き出す。
 他のどんなものとも違うおかしなその感覚に、体を好きなように変えられているという不思議な被支配感を覚えた。
「それと……中で一番感じるのは、ここな」
 中に入った指がくいっと曲がるのがわかった。
 あたしの中は、その動きを飲み込んで、形を変える。
 何、と思うより先に、指が当たった場所を軽く叩き始めた。
「あああっ……ああっ……!」
 一瞬、理性が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。
 それなりに堪えていたはずの声が、留め金の存在なんか無視してほとばしった。
 深い、深い快感だった。
 これに比べると、外の突起をいじられるのは表面的な刺激でしかないと思った。文字通り体の中から、快感を引きずり出される。暴れることもできないほど、快楽に支配される。
 無意識にずり上がって逃げようとする肩を、押さえられた。
「ここ……触んなかったか?」
「え……ええ? 何が……」
 ガウリイの言っていることを、よく理解できない。
 浮かんできた言葉は、揺れて揺れて吹っ飛んでいく。
「昨日……こうやって、しなかったか……?」
「あ……えっと……えっと……」
「考えらんないか?」
 笑いながらも、ガウリイは手を緩めない。
 もはやいじめてんじゃないのかと思う。
「んー……すぐ中でもイけるようになりそうだなー……」
 なんだか楽しそうに言って、反対の手を手のひらと腰骨の間に潜り込ませる。
「とりあえず……今日は、こっちな」
 潜り込んできた手の指先が、尖った部分を押さえる。
「……っ!」
 中を責める手の振動が、一番敏感な部分に真っ直ぐ伝わってくる。
 翻弄されて舞い散るばかりだった快感が、一つに束ねられていく。
 あっと言う間に、さっきと同じ高みに押し上げられていくのがわかる。
「やっ……そんなの……またイっちゃうから……!」
「そーだな」
「あ、うんっ……ね……だめ……ねえ……!」
「イっていいんだぞ」
「ねえ……ガウリイ……ガウリイ……!」
「リナ……そのまま」
 無理な姿勢で屈み込んできたガウリイが、あたしの耳に唇を寄せる。
 そこをぺろりと舐めて、低い声が囁く。
「イけよ」
 突起に触れた指が狭い場所を掘り返すように蠢いて、とどめを刺した。
 体中にあふれ返った快感が、一つに収束して弾けた。
「あ……ふ……っっ!」
 声も出せずに体を反り返らせる。
 奥深くに入り込んだ指は、逃げることも許さずに一ヶ所を責め続ける。
 あたしの体は、指を食いちぎるんじゃないかと思うくらい、そこを締め付けていた。
 そんなわけはないのに、頭を揺さぶられて、どこかに打ち付けられたような気がした。
 どすん、と投げ出される衝撃。
 さっき達した時よりも、確実に強く圧倒的な衝撃だった。
「や……あ……あー……」
 ゆっくりと動きが止まってからも、思考が取り戻せなかった。
 全身が快感で張り裂けそうになっている。
 目に涙が浮かんでくる。
 ほんとに壊す気だこいつ、と思った。
「……口ですると、また違うぞ?」
 ちょっと待て。
 今度は休むことさえさせてくれないのか。
 力なく頭を引き離そうとするあたしに構わず、あたしの足の間に屈み込んだガウリイが、今まで責めていたそこに唇を寄せる。
「待って……もういい……ほんとに……!」
 涙目で抗議しても、まったく無視された。
 生暖かいものが、まだ震えるそこを包み込む。
「……んーっ! んんーっ!」
 尖った部分を労るように口に含んで、やわらかく舌でなで回す。
 十分固くなっているのに、下から上まで、もっと立てようとするように舐める。周りの溝になった部分も、ぐるぐると。
 やわらかく折り重なるような快感の襞に、全身の震えが止まらない。
 どうしよう……これすごい……。
「や……もういい……もういいんだってば……」
 あまりの刺激に涙がぽろぽろこぼれていった。
 頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されて、もう気持ちいいなんてレベルじゃない。おかしくされる。壊れていく。
 肩をつかんで、必死で押し返そうとする。でも、びくともしない。ぎりぎりと爪が食い込んでいく。
「ねえ……変になっちゃう……壊れちゃうっ……!」
 ちらり、とガウリイが目を上げた。
 透明な目だった。
 微笑んだ、と思った。
「壊れちまえよ」
 確かに、そう言ったと思う
 低い声、小さな声で。
 指が、また体の中に食い込んでくる。
 あの場所を責められる、と思った。身構えたのに、その衝撃はやはりあたしの脳を暴力的に鷲掴みにした。
「あああああっ!」
 もうそこからは、意味のある言葉なんて言えなかった。
 死ぬんじゃないかと思った。
 怖さも恥ずかしさも吹っ飛ぶほどに、ただ感じ続けた。
 悲鳴のようなあえぎ声を上げ続けて、空気が足りなくて苦しくなった。
 快楽の海で悶えて、溺れて、壊れた。
 海の一際深いところに、頭を掴んで押し込まれた、と思った。
 そこで、途切れた。

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