この部屋で音楽がかかることは殆どない。
テレビも、一応置いてはあるけれど、あまり働く機会を貰えないまま置き去られている。


部屋に響くのは雨の音。ただそれだけ。
今日はキーボードの音は聞こえなかった。





--+--- 雨と獣 −アメとケダモノ− ---+--
第三夜


BY ニイラケイ






     
 
眠れない。
麻衣はベッドの中で嘆息した。
ナルが帰ってきて、これでやっと安心して眠れる、と何となく思っていたのに。
麻衣は首を動かして、閉まっている扉を見る。

ナルは扉を閉めてしまった。
夕べのように、開けておいてはくれなかった。


(・・・・我が儘言ったから)
怒っているのかも知れない。
キーボードの音が聞こえないわけは、あの扉という隔たりのせいなのだろう。
何か考え事をしている風だったナル。
いつもでは考えられないような行動をとるナル。
(ナルの近くに行きたい)
どうしても、彼の温もりなしでは眠れないような気がして、麻衣はもう一度ベッドを降りた。
(もっと、近くに)
そっと扉を開けると、ソファの上にナルが居て、ただ窓の外の雨を見つめている。
着替えは済ませたようで、先ほどのバスローブはソファの背に無造作に掛けてある。
そして。
驚いたことに、彼は仕事をしていなかった。閉じたままのノートパソコンが、彼の傍らに置かれている。






扉の開く音が微かに響いて、ナルは背後を振り返った。
「・・・麻衣?」
「ナル、寝れないの」
「馬鹿。横になってろ」
「だって、寝れないんだもん」
溜息をつく。病人というのは得てして我が儘なものだ。
そして、麻衣の風邪は自分に責があることを、不本意ながらもナルは知っている。
おぼつかない足取りで近寄ってきた麻衣が、ナルの服を軽く摘んだ。
潤んだ瞳は熱のせいだろう、と解釈する。
「・・・僕にどうしろと?」
「一緒に寝て」
小首を傾げて、麻衣がねだる。
その細い首筋には、昨夜ナル自身がつけた朱痕が見え隠れしている。
「風邪が移ったら?」
「あたしが看病する」
だから。
「一緒に・・・寝てクダサイ」
熱で上気した頬を更に染めて、けれど俯くことなく見上げてくる麻衣を見返して、
ナルはもう一つ深い溜息をついたあと、寝室へと移動した。

麻衣をベッドに横たえ、自分もその隣に座る。
ベッドサイドにある本を手にとって開いた途端に、また麻衣がナルの服を引っ張った。
「一緒に寝てよ」
「僕は眠くない」
「ウソ。夕べだって寝てないんでしょ?知ってるんだからね」

合点がいった。
麻衣は、ナルが寝ていないことを知っている。
「僕を、寝かせたいのか?」
「・・・違うよ。『一緒に』寝たいの」
「つまり、お前も寝てないんだな?」
「う・・・」
一晩中起きていたのか。
問いつめられて麻衣は嫌々頷く。ナルの溜息が再度落とされた。
「治す気がないなら、僕は仕事に戻る」
「や・待って!行かないで!!」
去ろうとしている腕を必死に掴む華奢な指が、微かに震えている。
「寝るつもりだったけど、寝れなかったの」
「何故?」
「・・・・・・ナルが居ないから」
「僕が?」
「だって、ナルが隣にいなかったから・・・」
「お前は子供か」
呆れて吐き出した言葉に、麻衣が敏感に反応した。
「一緒にベッドに入ったなら、一緒に朝を迎えたいって思うのは、子供の考えること?」
真剣な眼差しを向けて、震える指に力を込める。
「あたしを子供だって思うなら、どうして抱くの?」



雨の音が響く。静かな部屋。沈黙。
ナルは何も答えない。その問の答えこそが、彼の頭を悩ませているものなのだと、麻衣は知らない。
「あたし、ナルが好き」
「・・・ああ」
「ナルは?」
沈黙が返ってくる。微かに、ほんの微かに戸惑うような気配。
「イエスかノーでも良いよ」
好きだ、なんて言えない人だと知っているから。でも、せめて。
「ナルは、あたしのこと好き?」
ナルはイエスもノーもくれなかった。
ただ、少し強引に唇を塞がれて、呼吸を奪われる。
一度離して、もう一度唇を重ねる瞬間、ナルが何かを呟いた。
けれど、熱に浮かされた麻衣の耳では、それを理解することが出来なかった。






眩しい朝の光に目が覚めたとき、傍らに麻衣の姿はなかった。
ナルは何となく麻衣の姿を探す。
寝室には見あたらない。開け放したままの扉の向こうにも、彼女の姿は見えない。
バスルームかキッチンか。
どちらにしても、病人が彷徨いていることに変わりはない。
ナルは、夕べ脱ぎ捨てた上着を羽織って、適当に着衣を整えるとリビングへ出た。


「あ、ナル起きた?」
麻衣は予想通りキッチンから出てきた。
ナルが眉を顰めるのにも構わず、華のような笑顔でおはよう、と言う。
「風邪は?」
「ん?もう治ったよ〜」
言いながらぱたぱたと部屋中を走り回る麻衣を捕まえて、額に手を載せる。
「・・・・ね?下がってるでしょ?」
確かに熱は感じられない。だが、病み上がりでいきなり部屋の掃除を始めようなどと、誰が考えるだろう。
「今日も寝てろ」
「えー??もうヤダ〜・・・寝てるの飽きちゃったよ」
それに、折角良い天気だし、洗濯とかも済ませちゃいたいし・・・。
ぶつぶつと呟く麻衣の額を軽く小突く。
「馬鹿」
「ね、それよりナル、ちょっと屈んで」
「は?」
「良いから」
渋々麻衣に従うと、彼女はナルの額に手を当てて「やっぱり」と呟いた。
「今度はナルが風邪」
ナルの手もその額も、普段からは考えられないほど熱い。
麻衣が体温計を手に持って、ナルを寝室へ押し戻す。
「ほら、ちゃんと寝て!暖かくして、熱を計る!」
「要らない」
「ダーーーーメっ!!あんた、昨日あたしに同じこと言ったでしょうが」
仁王立ちする麻衣の顔を見上げて、ナルは諦めという言葉を頭にセットする。
これ以上言っても無駄だ。そして、麻衣の言うとおり、おそらく今日はろくに動けそうにもない。
(体が怠い)
風邪のせいだけでないことは知っているが、それはおそらく麻衣も同じ事だろう、と黙っておく。
「やっぱり移された、とか思ってる?」
「いや、空気感染だから、どうせ移るだろうとは思ってた」
そんなことよりも。
「麻衣は?測ったのか?」
「何を?」
「熱」
ナルの手が、熱で普段よりも熱くなっているなら、先ほどの検診は全くあてにならない、と言うことだ。
ナルの言葉に、麻衣はにっこり笑った。
「ばっちり平熱。ほら、ナルがちゃんと朝まで居てくれたからね」
嬉しそうにそう告げて、途中で「あ」と呟いた。
「ねぇ、昨日のさ」
「?」
「キスしてるとき、何て言ったの?」
「・・・意味が分からなかったのか?」
「聞き取れなかったの!」
「日本語だったはずだが」
「だから!・・・・もう一回言って?」
ねだるような麻衣の仕草に、ナルが唇の端を吊り上げた。
「もう一度させてくれるなら」
「・・っば・・バカ!」
ナルの意図するところに気付き、麻衣が頬を上気させて怒鳴った。
「もー、病人は大人しく寝てなさい!」
部屋をバタバタと出ていく麻衣の後ろ姿に、ナルは昨夜見つけたばかりの『答え』を反芻する。


麻衣を、受け入れるための許容量。
そしてその理由。


「『・・・・愛している』」
「え?何?」
呟いた言葉は、またしても麻衣の耳には届かなかったらしい。
「何でもない」
下らない、あまりにも下らない陳腐な台詞。


けれど、理由としてさほど悪くはない。
彼が己の中に理由付ける言葉としては、それなりに面白くもある。





ナルは重たくて重たくて仕方ない瞼を、逆らうことなく降ろす。
遠のいていく意識の中で、「隣にいるからね」という麻衣の声が聞こえた気がしたが、
返事は出来なかった。
 
     






久しぶりに小説を書いたので、いまいち勝手が掴めませんでしたわ・・・。
何だか読みにくい感じですいません・・・解ってはいるんですが、上手く直せなかったです(涙)
書きたかったシーンは大幅削除だし(><;
まぁいいや。私、清純派だからv←そっちのシーンか。
いやしかし。
この話を考えたのは、実は某御方と電話してたとき。
「ナルって『愛してる』とか言わないですよね〜」みたいな話をしてて、(・・・寝惚けてたからあやふやだけど>記憶)
むしろ、それを言わせるために話しを書こう!と思い立ったのですよ。←阿呆。
というわけで、もしももしもご迷惑でなければ、某真田さんに捧げさせて下さい〜><////(だから「某」の意味無いってば)
何だか最近色んな方に構っていただけて、どんどん図に乗っております、ニイラケイ!(滅)
ここらで自分に規制かけとかないと、某所の飲み会の時よりも
更にエスカレートしそうな気がしないでもないのですが><!←大問題。

何だかんだと引き延ばしてしまいましたが、久々の長編だったです。
・・・・暫くは短編書きになろう・・・・・・。←スランプ。
長々とお疲れさまでしたv