Presented by 森川緑さま
「やあったああ〜!うまいこと手に入れられたわ〜!」
あたしは手の中にある宝珠(オーブ)に頬ずりした。
それは、ある洞窟の中に眠っていたもので、つい昨日さまざまなトラップをかいくぐってようやく手に入れたものである。
とはいっても、今までさまざまな窮地を切り抜けてきたリナ=インバースさまにとっては造作もないトラップだったのだが。
「それって何に使うものなんだ?」
ガウリイが言う。
「これはねえ!魔法を貯めることができるオーブなのよ!
前もっていくつかの呪文を封じておけば、呪文詠唱なしで発動させられるらしいの。
どのくらいの魔法に耐えられるのか、後で実験しなきゃ〜!」
うきうきしながらあたしが言っていると、食堂の主人が注文していた料理を運んできた。
「はい、おまちどう。
ああ、あんたかね。昨日伝説のオーブを手に入れたっていうのは。」
おやじさんはあたしの手の中の赤い宝玉に目を留める。
「そうなの♪んふっふっふ」
「大変だったろう。今までも、腕に覚えのあるたくさんの男たちが挑戦しては、ぼろぼろになって帰ってきたもんだよ」
「あらそう?トラップは確かに結構な数だったけど、あたしにはそういうのを本能で探知できる、名犬ガウリイくんがいたから、楽勝だったわよ♪」
「おひ・・」
横からガウリイが突っ込みを入れるが、無視である。
しかし事実、ああいう勘が頼りのところでは、ガウリイのケダモン並の五感は大活躍だ。
おやじさんはなおも腕を組んで過去を反芻するように続ける。
「運良くお宝にたどり着いても、あんな呪いがあるしねえ・・」
「呪い?」
「ああああ!おやじさん!料理追加してもいい??」
あたしは慌てておやじさんとガウリイの会話を遮った。
「ん?ああ、いいが・・まだ食うのかね・・」
「うん♪あとはデザート♪」
話がうまく逸れたので、ハテナマークを頭上に浮かべたままのガウリイににっこりと笑顔を向ける。
ふう、危ない危ない・・・
「さあ、ガウリイ!昨日は大活躍だったから、好きなもの注文していいわよ!
あたしがおごってあげる!」
「ええ!!?なんだっ何か企んでるだろ?」
む・・なんだその怯えた顔は・・
「どういう意味よ・・。 まあいいわ♪ほんとにガウリイのおかげでこのオーブを取れたんだもん♪
何でも言って!?」
「ほんとか〜?」
ちょっと小首を傾げつつ、にこにこと笑顔を向けていると、ガウリイは訝しげな顔をしたが、しばらくしてぽつっと口を開いた。
「なんでもいいなら、オレ、リナ・・・・・」
言いかけて、はっとしたように手を口に当てる。
「?どしたの?」
様子がおかしい。
あたしとおやじさんがきょとんと見ていると、ガウリイはしばらく小さな声でなにごとかをぶつぶつとつぶやいていたが、その後じろりとあたしをにらんだ。
「リナ・・・おまえさん、何かしたろ。」
「えっ???(汗) な、何のこと?」
突然の的を射た質問に、だらだらと汗が流れる。
「・・・・・そういや昨日、お前さん最後の最後にオーブをオレに取らせたよな・・・・
あんとき、オーブを掴んで台座から持ち上げたら、電撃みたいのがが体を走って・・・・・・・
あれ、なんかの呪いだったんだろ」
ガウリイのジト目の視線が怖い。
「えっと・・・」
「兄さん、知らんかったのか?そりゃ思いっきり呪いだよ。このお嬢ちゃんにはめられたね」
横からおやじさんが余計なことを言う。
「リナ〜・・・・」
「ガガガ・・ガウリイ!これにはほら、いろいろ事情があってさああ・・・
適材適所っていうか〜・・」
「呪いってどんな呪いなんだ、言ってみろ」
ガウリイの剣呑なまなざしに、あたしは両手を上げながら小さく答えた。
「た、たいしたことないのよ。・・あのね・・・・」
快晴だった。
空には雲ひとつない。
風はやわらかく髪をなびかせ、頬をくすぐって通り過ぎていく。
徒歩で旅をする旅人たちには、最高の天気だ。
だが。
「・・・・・」
あたしは力ない足取りでてくてくと歩く。
あたしの前には、いつもは後ろを守るように歩いている大きな影が、無言で歩を進めている。
うらやましいほど綺麗な金の髪が、歩調にあわせてさらさらと揺れるの眺めながら、あたしは小さくため息をついた。
ガウリイが不機嫌なのだ。
あの呪いのことを言って以来、ずーっとあたしと会話をしないのである。
「ねえ・・・ガウリイ・・・そろそろいったん休まない?」
そう声をかけると、ガウリイはちらっとあたしを見、その後空を眺めて了承の意を示した。
ってただ頷いただけだが。
呪いは、別に命に関わるようなもんではない。
あたりまえである。
いくらあたしでも、ガウリイの命を平気で危機にさらすようなことはしない。
あたしが聞いた呪いの内容はこうだ。
『台座から宝珠をとった瞬間に、電撃みたいのが体を走る』
『その後、電撃を受けた人間は、うそが言えなくなる』
『宝珠を台座に戻すと治る』
『宝珠が砕けると治る』
つまり・・・・ちょっと素直になるだけ(はあと)!
あたしには無理だけど・・いっつも素で天然ぼけぼけでくらげでヨーグルトなガウリイなら問題なし!
・・・と、思ったのだが・・・
「ねえガウリイ。夜は何を食べよっか。たしかハミールシティは海老で有名なのよね〜。」
ガウリイの気を引こうと食べ物の話題を出すが、彼は沈黙したまま。
大きな木に背中を預けて、目を瞑っている。
うう・・気まずい・・
一日でこんなにつらいとは、これからずっといっしょに旅などできるのだろうか。
あたしが所在なげにガウリイを見ていると、彼はおもむろにごそごそ旅袋から何かを取り出し、こそこそと何かをしてからあたしに差し出した。
『海老の蒸し焼き。海老のスープ、海老の・・・(以下略)』
と書いたメモだった。
「筆談かい!」
あたしは思わずずっこけた。
「ガウリイーー!あんたいつからそんなうじうじした男になったのよ!
いっつも何にも考えてないんだから、別にうそがつけなくなったって困らないでしょ!」
かきかきかき。
あたしの言葉に、でっかい体を丸めてメモ用紙にペンを走らせるガウリイ。
なんだか情けないやらかわいいやら。
『そおいうお前だっていっつも好き放題本音言ってるじゃないか。
でもうそがつけなくなったら困るだろ』
「好き放題って、どういう意味じゃあ!
あたしはちゃあんといろいろ考えて、言うべきことしか言わないし、言っちゃあまずいことは黙ってるのよ!
だから嘘つけなくなったら困るの!でもあんたはちがうでしょー。
別に仕事の値段交渉もしないし、敵を口からのでまかせで翻弄したりしないじゃないの」
あたしが叫ぶと、ガウリイはむすっとした顔でメモを出す。
『でも困る』
「だああ!どうしてよ!あんたがいつどんな嘘をついてるって言うの!」
何年もいっしょに旅をしているが、ガウリイが嘘をついたりしたところなんで数える程度しか見ていない。
それなのに、なんだってこう頑固に否定するんだろうか。
「オレが困るんじゃない。たぶん、リナが困る。」
突然、一日ぶりにガウリイの声が聞こえた。
ほんの一日とはいえ、ずっと聞いていなかった声は、なんだか懐かしいような、ほっとするような感覚をあたしに与える。
それも、一日黙っていたせいか、少し掠れた感じの声が、なんだか・・
・・と・・今なんだって?
「は?あたしが困るの?」
ようやく思考が追いついて、ガウリイの言葉に聞き返す。
「そ。リナが困る。」
ガウリイはいたってまじめな顔つきで、背もたれ代わりにしていた木から離れた。
少し前かがみになって、あたしを見つめる。
「なんで・・あんたが嘘つけなくなると、あたしが困るのよ。」
そう言うと、ガウリイはふっと小さく息を吐き出した。
「オレ、リナにはたくさん嘘をついてたから。」
「は?いつ?」
「いつも。」
「いつも?何それ・・」
いっつもあたしに嘘をついていたんだろうか。それってどういうん?
「たとえばーー・・」
ガウリイは急に立ち上がってあたしのそばに来た。
すとん、と目の前に腰を下ろして、髪に手を伸ばす。
いつもはわしわしとあたしの頭をなでていた手で、そっと髪を一房すくい、口元へ持っていく。
「こんな風に、リナの髪に口付けたい、とか・・・思っても言わなかったし。」
「・・・・・!」
あたしは思わず絶句してしまった。
これ、誰?
まじまじとガウリイの顔を見つめる。
「まずいわ・・呪いって、ほかにもなんか得体のしれない効果があったみたいね・・」
そうじゃなきゃ、ガウリイがこんなこと言うわけがない。
「ちがうぞ、リナ。これオレの本心だ。」
ガウリイはまじめな顔であたしを見返している。
「・・・・・落ち着いて、ガウリイ。なんだか知らないけど、たぶん惚れ薬みたいなもんね。
一番初めに声を交わした人間にでも惚れるのかしら。」
「ちがうって。」
「何にしても、それってきっと今だけの錯覚だから。次の町に着いたらちょっと対処法を考えましょうね。」
そこまで言うと、ガウリイはあたしの両の二の腕を掴んだ。
「リナ。」
真正面から蒼い瞳で射抜かれる。
ただ名前を呼ばれただけなのに、急に胸が痛い。
たぶん・・・・ここ一日声を聞いていなかったから・・・・・だから、変な感じがするのだ・・・
「な、何・・・」
「お前さんは本当にこういう方面に疎い。だからオレもお前さんにこういう感情を見せないようにしてきた。
でもそれはただ隠していただけで、オレはずっとお前さんを好きだった。」
あまりにストレートな言葉に、曲解して逃げる隙もない。
口をぱくぱくしているあたしに、ガウリイは畳み掛けるように言う。
「嘘をつけなくなったら、オレはいっつも思っていることをそのまんま言っちまうぞ?
リナに触れたいとか、リナを抱きしめたいとか、ご褒美はリナがいいとか・・」
「ディ・・炸弾・・ぶっ・・」
耳を覆いたくて、思わず呪文を唱えかけたあたしの口を、ガウリイが大きな手でふさいだ。
「最後まで聞け。
いいか、こんなこと言われたくなかったら、呪いを解くんだ。そうしたら・・」
そうしたら?
あたしの疑問のまなざしを受けて、ガウリイはふわりといつもの彼らしい温かい笑みを浮かべた。
「元通りだ。全部、忘れろ。」
しばらく口をふさいでいた手は、名残惜しそうにゆっくりと離れていった。
ぬくもりだけが唇に残る。
「・・・・そんなの・・できるわけないじゃないの・・」
あたしはつぶやいた。
「なんでだ?オレは、何もいわないようにするぞ?」
ガウリイはいつも通りのやさしい顔でそう言う。
呪いで嘘がつけない彼。
だからこれは本心なんだろう。
本当に、なんて・・・
「あ、あたしの返事も聞かないで、なんでそんな勝手になかったことにするのよ。」
頬が熱い。
頭も、なんだかてんで考えがまとまらない。
「だって、リナ、困ってるだろ?オレはお前さんを困らせたいわけじゃないんだ。」
「だから・・あたしは・・困ってるっていやぁそりゃ困ってるけど・・でも・・
ちがうのよ・・その・・」
妙に歯切れが悪くなってしまう。
これが天下のリナ=インバースか!
自分でも笑えてくるが、しょうがない。
あたしが一日声を聞かなかっただけでさみしくなるのも。
名前を呼ばれただけで胸が高まるのも。
こんな風にじたばたしてみっともなくなるのも。
たった一人の男にだけなのは認めなければなるまい。
「あ、あんたになら・・その・・ちょっと困らせられてもいいかな・・っていうか・・
ほ、本音攻撃はちょっといやだけど・・・・その気持ちはありがたくいただいておくというか・・」
しどろもどろにそう言いながら両手の指をにぎにぎしていると、ガウリイが言う。
「もしかして、それはオレの気持ちを受け入れるっていってるのか?」
「がふっ・・まあ・・平たく言うとそうなるのかもしれないし・・」
かあああっと頬だけでなく、顔全体が赤くなるのがわかった。
「つまりリナもオレのことが好きだと。」
「うぐぁ・・そんなストレートに言われると・・」
手をうちわ代わりにして顔を仰いでいると、ガウリイがあたしの頬を両手で挟んで仰向かせた。
「ほんとに・・?リナ・・オレ、保護者とか、そういう意味でお前さんが好きなんじゃないぞ?」
「う、うん・・わかってる・・けど・・」
「リナを抱きしめたいし、リナとキスしたいし、あまつさえリナといっしょの宿で○○○して△△△したいって・・」
「ディ、炸弾陣ーーーー!!!」
今度こそ、あたしはガウリイを吹っ飛ばした。
その後、オーブに竜破斬を吸収させたら、あっさりとそれは砕け散った。
ガウリイはしばらくぶつぶつと試していたが、やがて呪いが解けたと嬉しそうに言っていた。
だが。
「リナ〜!今日の夜、オレ、リナが食べたい♪」
「こんのセクハラエロくらげぇ〜〜!!」
ほんとに呪いがとけたのかどうか、よくわからない。
「受け入れるって言ったのにぃーー!(涙)」
「それとこれとは話がちがうのよ!」
ちゃんちゃん。おそまつ・・(汗)
森川緑さまからのコメントv
す、すいません・・・
すっごーーーくなずなさんのガウリナテイストと違う気が・・・(汗)
小原の感謝の言葉(><)
どうしましょうどうしましょう…私この感激をどうやったら緑さんとみなさまにお伝えできるのか! この身の語彙の貧困さを憂えてのたうちまわりたき心境にございます!!
憧れの、尊敬申し上げる緑さんから! 涙が出てくるほど素敵な2人のお話をいただいてしまいました!
いいでしょー! うらやましいでしょー!!(笑)
すでにご本人に興奮・混乱した感想をお伝えしたのですが、それでもまだ治まりきらないのです。嬉しすぎます……。ガウリイが素敵すぎてリナがかわいすぎです……。
このお話、私がごくごくちょっとした贈り物をしたところ、返礼にといただいてしまったものなのです。あまりにつりあわなすぎるので、私からもさらにお返しをさせていただくことになっております(笑)。
しかし! 私がいくら筆を尽くしても、緑さんの書かれる素晴らしい2人には到底追いつかないんですよ! 本当にどうしましょう…!!(泣笑)
あああまだ感激の言葉が言い足りませんが、とにもかくにも、このたびはありがとうございましたっっ!